月ノ蝶、赤縄を結ぶ

 紅くんのお家に初めて泊まった日。

 そして初めて人を好きだと思った日と。



「あれ、泣かすつもりはなかったんだけどな」



 紅くんは「仕方ないな」とどこか嬉しそうに笑いながら私を抱きしめた。

 私も首に腕を回す。



「これは、嬉しくて泣いてるの」

「知ってるよ。こんなに喜んでくれるとは思わなくてビックリしたんだ」



 子どもをあやす時の手つきで背中をポンポンと叩いてくれる。

 私はこれに弱い。

 ご飯が冷める前に泣きやもうと思ったのに、もう無理。


 春の暖かさによって溶ける雪のように涙が零れてくる。

 どうやら私の心には一足先に花咲く季節が訪れたみたいだ。



「茜、16歳の誕生日おめでとう。後でケーキも食べようね」

「うん」



 結局夕食は覚めてしまって「前と一緒だね」と笑いあった。
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