トツキトオカの切愛夫婦事情 ―Special episode―
 いや、誕生日を覚えていてくれただけでも嬉しいことよね。食事をしようというのも彼の単純な厚意だよ、きっと。

 私は気を取り直して精一杯自然な笑顔を作り、「わかりました。楽しみにしてますね」と返した。


 慧さんが予約してくれたのは、高層階にある夜景が綺麗なフレンチレストランだった。

 向かいに座る両親は、私たちふたりを眺めて嬉しそうにしている。いまだに夫婦とは言えない関係だと知ったらショックを受けるだろうなと、若干後ろめたさを感じる。

 アペリティフのシャンパンがグラスに注がれると、お祝いの言葉をかける両親に続いて慧さんが口を開く。

「誕生日おめでとう」

 クールな笑みを浮かべる彼に言われると、やっぱり特別な嬉しさを感じる。「ありがとうございます」と微笑み、グラスを持ち上げた。

 それから仕事の話はそこそこに、両親が先日行った旅行の話などを聞きながら、目でも楽しめる美味なフレンチを堪能した。四人で食事するのは初めてに近いし、親孝行の意味ではいい機会になっただろう。

 食事の後、両親と別れてホテルを出ると、エントランスには大きな白いクリスマスツリーがある。辺りもイルミネーションで輝いていて、毎年恒例とはいえ幻想的でちょっぴり気分が上がる。

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