悪魔と涙と甘い恋。

「俺はただ……」


そこまで言って神楽さんは顔を上げた。

椅子に身体を預けた反動で、ギギッと軋む音が響く。



「負けたくないだけ」


「神楽さんでも負けることってあるんですか?」


前髪の間から覗く瞳がこっちを向いて、戻すようにまた前を向く。


「昔は、な」


昔……。


あたしも元の位置に帰るように、テーブルの上のマグカップを見つめた。



「弱かったら誰も守れねぇから」


ドキンとした。

心を読まれてるのかと思って。



お姉さんが必死に抵抗する姿を見て、あたしは何も出来なかった。

躓いたときも、怖くて声が出せなくて。



目の前にいるのに………助けられなかった。


もしあの時、お兄さんが通りかからなかったらと思うと背筋がゾッとする。

あたしもお姉さんも完全に餌食になっていたと思う。


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