悪魔と涙と甘い恋。

「俺、戻るんで羽瑠の事お願いできますか?」

「うん。いいけど」


あ……。

神楽さん行っちゃうんだ。



と、しょんぼりするのも束の間。

あたしの頭に睦美さんの言葉が浮かんで、緊張からドッと心臓が大きく跳ねた。



『衣吹本人に聞いてみなさい』


話すなら今しかない。

そう思ったんだ。







   ♢♦︎♢♦︎♢


「あ、あのね、衣吹さん」


膝の上で、ギュッと手の平を握りしめる。

次の言葉が簡単に出なくて。


小さく深呼吸をした。



「何?そんなに改まったら構えちゃうんだけど」


茶化すように冗談っぽく笑う衣吹さんに、覚悟を決めて見つめると、途端にその顔が変わった。



「誤魔化さないで、ちゃんと答えてね」

「わかった」


真剣に見つめ返してくる衣吹さんに、あたしは、ふぅ、と息を吐いて自分の気持ちを落ち着かせる。


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