悪魔と涙と甘い恋。

「いつの間にそんなに仲良くなったんだ?だいぶ衣吹には心を許してるんだな」


組長が驚いたような声を出す。

その言葉にあたしの手を握っていた女の人……衣吹さんが目を細めて笑う。


「ほんと?嬉しいな」


衣吹さん、笑った顔は可愛いんだ。



「ねぇ、あなた名前は?」


ドキリとした。


あたしの、名前……は……。


「言いたく、ない……名前なんか……いらない」


思わず俯いた。

名前は……いらない。


あたし、いらない子だもん。


……この世界に“あたし”という人間は……存在しなくていい……。


だから名前も何もかも……全部、捨てる……。


ギュッと握っていた衣吹さんの手が、力無くあたしの膝の上に落ちる。




「何でいらねーの?」


男の人の声に肩がビクリと上がり、同時に心臓が嫌な音を立てた。


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