好きになってはいけない
 とりあえず客間へ連れて行き、濡れた服を着替えさせると、彼は幾分か落ち着いたようだった。

湿った髪をタオルで拭きながら、部屋の中を観察する。

「なんだ、そんなに珍しいか」

 そう問うと、素直に頷く。

 一体どこから来たのだろう。

 夢の中の男と同じかと思ったが、本当にそうだろうか? 

 現実に存在する男を、夢に見るなんて。

 そんなことがあるだろうか。

 彼の目には、何もかもが珍しく映っているようだった。

 燭台や、綺麗にドレープの入ったカーテン、客間の端に置かれた天蓋付きのベッドにバルコニーまで、彼は物珍しそうに見つめた。
 
「君はなぜ、あんなところから?」

 一つ目の疑問を口に出す。

「……えっと」

 口籠る彼を、そばについていたユリカが不審な目で見た。

「言えないのか?」

「レジス様、やはりアテナイの間者では……」

 不安げに言うユリカの言葉を、そのまま彼に投げる。

「そうなのか?」
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