好きになってはいけない
「俺はスパイなんかじゃない!」

 彼はそう即答した後、逡巡するように黙り込み、ゆっくりと口を開いた。

「ここはどこなんだ」

 彼の目は真剣だった。

 少し不安げに揺れる瞳。

 しかし、その不安を打ち消すような、生命力に満ちた瞳。

「オルガの首都、アンティリアだ」

 その名を聞いて、彼の瞳が困惑に染まる。

「オ……ルガ? アンティリアって、何のことを言ってるんだ?」

 その言葉を聞き、今度はこっちが困惑する。ユリカとシーラが顔を見合わせ、私も彼の顔を凝視した。

「アトランティス一の城塞都市を知らないなんて、とんだ田舎者だな。それとも、本当にアテナイの間者なのか?」

 彼の顔を、まじまじと観察してみる。

 しかし、アテナイ人のような特徴はちっとも見当たらない。

 今までに会ってきたアテナイ人のように金髪なわけでもなく、恐ろしく鼻が高いわけでもない。

 肌の色だって、見たことのない薄い橙の色をしていた。

「アトランティス……? ここはアトランティスなのか⁈」

 いきなり、彼は私の肩を掴み、そう叫んだ。
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