好きになってはいけない
「シーラをつけよう。わからないことは何でも彼女に聞くといい」

 いいね?とシーラを見ると彼女はかしこまりました、と頭を下げる。

 まだやることがたくさんあるからと、部屋から出るため扉に手をかけて、私はふと足を止め、彼を振り返った。

「名前は?」

「え? あ、薫だ。三木薫」

「カオルか。覚えておこう」

 扉を引く。

「あ、おい! あんたの名前は」

 彼の声を背中に聞きながら、扉を閉めた。

 長い廊下を自室に向かって歩きながら、窓越しに見える空を眺める。
 
 カオル……か。

 夢の中の男。

 馬鹿みたいな話だと、自分でも思う。

 彼は私を知らないのだろうし……いや、あの夢は神からのお告げだったのだろうか。

 では、何のための? 

 彼は、私が想像していたよりも低い、よく通る声をしていた。
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