ホウセンカ
「う、上手いとか……よく分かんないよ」
「だって初めての時、そんなに痛くなかったんでしょ。浅尾さんが場数踏んでて上手いからだよ。体の相性もいいんじゃない?」
「そんなこと言われても、比較対象がないし……」

 七海って、本当にこの手の話が好きだなぁ……。誕生日の夜のことも、しつこく訊かれた。あの時はいっぱいいっぱいだったし、恥ずかしすぎて詳しく話せないのに。
 七海ぐらい経験豊富なら、相性とかそういうのが分かるのかもしれないけれど。私は別に分からなくていいと思った。桔平くんが初めてで、唯一の人。そうであってほしいから。
 
「まぁ、相性悪いわけないか。見たら分かるわ。肌つやっつやだもん」

 確かに肌の調子はいい。満たされているのは自分でも分かる。
 体を重ねる度に、桔平くんに対しては何も飾らなくていいんだって思えるようになって。桔平くんも前より意味不明な発言が増えているから、きっと素の姿なんだろうなって感じる。

 この前も自分が散らかした床を眺めて、いきなりエントロピーの法則?がどうのこうの言い出したし。独り言なのか分からないけれど、妙に早口で。後で私にもちゃんと説明してくれるから、別にいいんだけど。

 ちなみにエントロピーの法則は「すべての物事は放置すると乱雑になっていって、自発的に元に戻ることはない」……ってことなんだって。やっぱり、よく分からない。

「まぁ……仲良くやってるし、順調かな。おかげで、充実した夏休みになってると思うよ」
「あぁ~いいなぁ。私もそろそろ彼氏欲しいわ。藝大で見つけようかな」
「でも藝大生は変な人ばっかだって、桔平くんが言ってたけど」
「浅尾さんみたいな大当たり物件は、そうそうないかぁ……。最近、合コンもハズレばっかだしなぁ」

 そう言えば、桔平くんのお友達の楠本さんとはどうなんだろう。顔も悪くなかったし、しっかり者で明るい感じだったから、七海に合いそうな気もする。

 もともとあの合コンは、七海の友達のツテで楠本さんとつながって企画したものらしいし。今でもちょこちょこ連絡を取り合って合コンやってるって話だけど……幹事をやると、あんまり発展しないのかな。

 七海には幸せになってほしい。入学式の時、隣の席に座っていたのが縁で仲良くなったんだけど、妙に気が合うし私に持っていないものばかりだったから、すごくキラキラ見えて。一緒にいれば、こんな風に明るくなれそうだなって思った。本当に大好きで、大切な友達。

 そもそも桔平くんと出会えたのも、七海と友達になったからだもんね。
< 118 / 408 >

この作品をシェア

pagetop