ホウセンカ
「楠本さんは、タイプじゃないの?」

 思いきって訊いてみた。

「え、かけるん?」
「か、かけるんって呼んでるんだ」
「かけるんは、なんて言うかなぁ。悪友的な感じよ。面白い奴だし顔も悪くはないけど……浅尾さんみたいなイケメンハイスぺ男子と友達になれるわけだし、エサって感じ?」

 エサ……。うーん、男女の仲って難しい。
 もしかすると七海はこれまでたくさん遊んできた分、余計に男性を見る目が厳しくなっているのかな。

「まぁ合コン楽しいし、しばらくは特定の人と付き合わずに適度に遊ぶのもいいかな」
「まだ遊ぶの?」
「適度に、よ。高校の頃は見境なかったけど、もう大人だし。良い感じにセフレをキープしつつ、運命の人を探すわ」

 七海曰く、セフレは遊びとは違うらしい。うん、まったく分からない。

 でも七海は運命を信じていて、“出会うべくして出会う人”は絶対にいるんだって言っている。友達としか思えない人とは最初から友達になる運命でしかなくて、恋人になる2人は出会った時から必ず惹かれ合う。そう力説していた。

 最初は話半分で聞いていたけれど、今はそうかもしれないって思っている。だって桔平くんと出会ってしまったから。こんなの、運命としか考えられないもん。

「そういや今日、かけるんも来るって言ってたよ。浅尾さんの絵が見たいからって。どっかのタイミングで合流しよっか」

 楠本さんに会うのは、合コンの時以来だ。桔平くんも特に頻繁に会っているわけじゃないらしいし。だけど桔平くんが気を許している唯一の友達みたいだから、私も楠本さんと仲良くなりたいな。

 上野駅に着くと、大勢の人がぞろぞろと藝大方面へ向かっていた。その流れに乗って、上野公園を突っきるように歩いていく。

 駅から10分ほどで藝大に到着。大学は道路を挟んで音楽学部校舎と美術学部校舎に分かれていて、桔平くんは美術学部の方にいるって言っていた。どうやらフード系の模擬店はそっちに集中しているらしくて、桔平くんも少し手伝っているんだって。

 とりあえず美術学部の敷地に入ると、ずらりと並んだ大きな立体オブジェがお出迎えしてくれた。

「うわぁ、すごー!これが噂の神輿かぁ」

 七海が大きな声を上げる。

 神輿は藝大の大学祭名物なんだって。大きな龍やら馬やら……風神雷神?みたいなものやらいろいろなデザインがあって、どれもリアルで大迫力。やっぱり藝大生ってすごいなぁ……。

 あ、そうだ。着いたよって連絡しておかなきゃ。桔平くん、どの辺にいるんだろう。とりあえず自分が今いる場所を写真で送っておいた。
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