ホウセンカ
「そういやオレが手伝ってる模擬店、コーヒー出してるんだよ。飲みに行く?」
「あ、行きたい」
「七海ちゃんは、コーヒー好き?」
「うん、飲む飲む」

 3人で模擬店が並ぶ道を歩いていると、なんだか妙にウキウキした気持ちになった。

 やっぱり大学のお祭りは、高校とは規模が違う。訪れる人の年代も幅広いし、楽しくて賑やかな空気に満ちていて、この場にいるだけで楽しくなってくる。

「でも浅尾さんって、模擬店手伝ったりするんだね。なんか意外」
「七海ちゃん、オレのことすげぇ協調性ないヤツと思ってない?」
「協調性ないっていうか、いつでも我が道を行く感じ?」
「間違ってはねぇけど」

 桔平くんと七海が仲良く会話しているのも嬉しくて、自然と口元が緩んでしまう。今日はちょっと、気持ちが浮つきすぎかもしれない。でも楽しいんだもん。お祭りだし、いいよね。

 模擬店の行列の中ほどで、桔平くんが立ち止まった。

「おい、ヨネ」
「あれー浅尾きゅん。戻ってきたのー?」

 “ヨネダ珈琲”と書かれた立て看板の奥から、丸メガネにベレー帽姿の女性が顔を出す。浅尾きゅんって……。
 
「客、連れてきた」
「うわーっ!可愛いー!えーなにー浅尾きゅんの彼女ー!?」

 桔平くんにヨネと呼ばれたその女性は、右手でメガネを上下させて私の顔を凝視してきた。
 
「こっちが彼女の愛茉。で、友達の七海ちゃん」
「わー愛茉ちゃんと七海ちゃん、はじめましてー。浅尾きゅんの同級生の米田(よねだ)ですー。コメダと書いてヨネダですー。日本画描いてますー。2人ともチャーミングですねぇー」

 間延びした独特な喋り方。……やっぱり変わった人が多いな、藝大って。でもニコニコしていて、とても良い人そう。そばかすが、なんか可愛いし。

 それにしても、コメダと書いてヨネダさん。で、ヨネダ珈琲。……なるほど?

「あれ、小林はまだ?」
「うんー。でも、もう来るから大丈夫ー」

 桔平くんの学校生活って謎だらけだから、こうやって同級生と自然に会話している姿を見るのは新鮮な感じだな。

「愛茉ちゃんと七海ちゃん、なに飲みますかー?エスプレッソとかカフェオレとかもあるでよー」
「愛茉はカフェオレだろ?アイスでいい?」
「うん」
「私も愛茉と一緒でいいよ」
「んじゃ、ちょっと待ってて」

 桔平くんは看板の裏に回って、手際よくカフェオレを作り始める。私と七海がお財布を取り出すと、米田さんは慌てて手を振った。

「お金いいよー。浅尾きゅんのおごりだからー」

 米田さんの言葉に、桔平くんが後ろで頷く。なんか2人とも、仲良さそうでいいな。
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