ホウセンカ
 洗面所と、廊下から部屋につながるドアがどちらも半開きになっている。

 私はいつも、すべてのドアを閉めて家を出ていた。子供の頃からの習慣だし、こんな風に中途半端にすることはしない。しかも洗面所だけならまだしも、部屋のドアまで半開きにするなんて、絶対にありえないことだった。

「一旦、家出るぞ」

 桔平くんの冷静な声で我に返る。手を引かれてマンションの外に出て、桔平くんが電話をかけはじめた。

 空き巣――電話で話す桔平くんの口から聞こえた単語に、頭の中が真っ白になる。ドアの隙間から見えた部屋の中は、物が散乱しているように見えた。一気に怖くなって、体がガタガタと震えはじめる。

「大丈夫だよ。オレがいるだろ」

 肩を抱き寄せられた。目の前が滲んできたけれど、ぐっと堪える。泣いてる場合じゃない。

 その後すぐに警察が到着した。パトカーの赤色灯に、何事かと近所の目が集まっている。まさか自分の人生で、警察のお世話になる時が来るなんて思いもしなかったよ。

 でも桔平くんがいてくれて良かった。私がボンヤリしているから、代わりにいろいろと対応してくれる。そっか、マンションの管理会社にも連絡しないといけないんだ。

 鑑識の人が何かの粉をパタパタして、靴跡や指紋などを採取している。ドラマとかで良く見るシーン。これが自分の部屋の光景だなんて、全然現実味がない。

 家を出る時のこと、帰ってきた時の状況、どこに何を置いていて、何が無くなっているのか。ひとつずつ、いろいろと尋ねられる。聞き取りをしたのは女性の警察官で、私を落ち着かせるように優しく対応してくれた。

 侵入経路はおそらく窓。割られてはいなかったけれど、金具を引っかけて鍵をするクレセント錠は、実は外側からも開けられるんだって。

 私の部屋は5階。最近は1階や2階をあえて狙わずに、雨樋をよじ登ったり屋上からロープで降りてきたりして上層階にも侵入するケースも増えているみたい。

 大事なものは桔平くんの家に全部あるから、盗られたのは洋服や下着だけ。洋服タンスの引き出しを全部開けられていて下着は全部なくなっていたから、もともとそっちが目的だったのかもって。聞いていてゾッとした。それって、ここに住んでいるのが女だって分かっていたってこと?

 いろいろなことがグルグルめぐって、頭の中が沸騰しているみたいな感覚だった。
 
「愛茉。お父さん、明日の朝イチで来てくれるって」

 2時間ぐらいして警察が帰った後、桔平くんが言った。お父さんにも連絡してくれたんだ……ていうか、連絡先知ってたのね。
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