ホウセンカ
「これ、拭いていかねぇんだなぁ。掃除しないとな」
鑑識の人が使った銀色の粉が付着した壁を、桔平くんが指でなぞる。そっか。そういうこともしないといけないんだ。部屋も散らかったままだし。片付けないと。でもなんだか、力が抜けてしまって。何も考えられないし、何もできない。したくない。
片付けようと何となく手を動かすけれど、全然進まなくて。ほとんど桔平くんが綺麗にしてくれた。
バッグにできるだけ洋服や小物を詰め込んで、どうせ無駄なんだろうなと思いつつ戸締りをして、タクシーで桔平くんの家に帰宅。少しホッとしたら、また体が震え出した。
「おいで」
ベッドに腰かけた桔平くんが、両腕を広げる。一気に涙が溢れてきて、桔平くんの胸に飛び込んだ。
「よく我慢してたな。えらいえらい」
「……もうヤダ、なんでなの?気持ち悪い、怖い、ヤダ、怖いよ」
堰を切ったように泣きじゃくる私を、優しく宥めてくれる。
今日あんなに幸せだったのに。なんでこんなことが起こるの?私が何したっていうの?
大したものは盗られていなくても、心のダメージは思いのほか大きい。気合い入れて美味しい肉じゃが作ろうと思ったのに。本当なら今頃、桔平と笑って過ごしていたはずなのに。
怖くて気持ち悪くて悲しくて、私は桔平くんの腕の中でひたすら泣き喚いた。
そして泣き疲れて眠ってしまった翌朝。目が覚めたら、桔平くんが私を抱きしめたまま眠っていて、ものすごい安心感に包まれていることを実感した。
「とにかく、愛茉が無事で良かったよ。桔平君も、本当にありがとう」
朝一番の飛行機で文字通り飛んできてくれたお父さんの顔を見たら、また泣きそうになった。自分がまだまだ子供だということを思い知らされる。
管理会社の人が私の部屋を見に来て、窓や鍵に不備がないかを確認していった。玄関の鍵交換の費用負担について、お父さんが管理会社の人に確認をしてくれたけれど、大家さんに交渉するとかで結局保留に。侵入経路が玄関じゃないのであれば、渋るかもしれないって……世の中、そんなものなのかな。
平日だけど桔平くんは学校へ行かず、ずっと付き添ってくれた。
お父さんは夜の便で小樽へとんぼ返りしないといけないらしいけれど、その前に桔平くんの家で今後について話すことにした。
「広くて綺麗なマンションだね」
「すみません、ソファとかなくて。普段、人を呼ばないんで」
お父さんと私はキッチンカウンターに座って、桔平くんはいつも絵を描く時に使っている椅子を持ってきた。なんだか変な感じ。桔平くんの家に、お父さんがいる。
鑑識の人が使った銀色の粉が付着した壁を、桔平くんが指でなぞる。そっか。そういうこともしないといけないんだ。部屋も散らかったままだし。片付けないと。でもなんだか、力が抜けてしまって。何も考えられないし、何もできない。したくない。
片付けようと何となく手を動かすけれど、全然進まなくて。ほとんど桔平くんが綺麗にしてくれた。
バッグにできるだけ洋服や小物を詰め込んで、どうせ無駄なんだろうなと思いつつ戸締りをして、タクシーで桔平くんの家に帰宅。少しホッとしたら、また体が震え出した。
「おいで」
ベッドに腰かけた桔平くんが、両腕を広げる。一気に涙が溢れてきて、桔平くんの胸に飛び込んだ。
「よく我慢してたな。えらいえらい」
「……もうヤダ、なんでなの?気持ち悪い、怖い、ヤダ、怖いよ」
堰を切ったように泣きじゃくる私を、優しく宥めてくれる。
今日あんなに幸せだったのに。なんでこんなことが起こるの?私が何したっていうの?
大したものは盗られていなくても、心のダメージは思いのほか大きい。気合い入れて美味しい肉じゃが作ろうと思ったのに。本当なら今頃、桔平と笑って過ごしていたはずなのに。
怖くて気持ち悪くて悲しくて、私は桔平くんの腕の中でひたすら泣き喚いた。
そして泣き疲れて眠ってしまった翌朝。目が覚めたら、桔平くんが私を抱きしめたまま眠っていて、ものすごい安心感に包まれていることを実感した。
「とにかく、愛茉が無事で良かったよ。桔平君も、本当にありがとう」
朝一番の飛行機で文字通り飛んできてくれたお父さんの顔を見たら、また泣きそうになった。自分がまだまだ子供だということを思い知らされる。
管理会社の人が私の部屋を見に来て、窓や鍵に不備がないかを確認していった。玄関の鍵交換の費用負担について、お父さんが管理会社の人に確認をしてくれたけれど、大家さんに交渉するとかで結局保留に。侵入経路が玄関じゃないのであれば、渋るかもしれないって……世の中、そんなものなのかな。
平日だけど桔平くんは学校へ行かず、ずっと付き添ってくれた。
お父さんは夜の便で小樽へとんぼ返りしないといけないらしいけれど、その前に桔平くんの家で今後について話すことにした。
「広くて綺麗なマンションだね」
「すみません、ソファとかなくて。普段、人を呼ばないんで」
お父さんと私はキッチンカウンターに座って、桔平くんはいつも絵を描く時に使っている椅子を持ってきた。なんだか変な感じ。桔平くんの家に、お父さんがいる。