ホウセンカ
「私は……桔平くんと一緒に暮らしたい。だからお父さん、お願いします」
桔平くんと一緒に、頭を下げた。
学生の分際で同棲したいなんて、普通なら反対されるに決まっている。だけどひとりは怖い。あんな簡単に侵入されてしまうんだもん。もし家にひとりでいる時だったらって考えるだけで、体が震えてしまう。
ワガママなのは分かっている。東京でひとり暮らししたいって言ったのは私なのに。でもちゃんと、今の自分の気持ちを言わなくちゃ。もう嘘はつきたくないの。
お父さんはしばらくの沈黙の後、小さく息をついた。
「……分かった。どちらにしても、こんなことがあると僕も心配だからね。桔平くんと一緒なら、その点は安心できるよ。しっかりしているし、愛茉のことを大切にしてくれているから」
そこまで言って、穏やかだったお父さんの表情が、少し厳しいものに変わる。
「ただね、さっきも言ったけど、お互い学生なんだから。節度のある付き合いをしてほしいとは、思っているんだよ」
「避妊は毎回必ずしています」
「きっ、桔平くん」
間髪入れずに飛び出した桔平くんの言葉に、思わず声が裏返ってしまった。お、お父さんの前でそんなこと……。
「え?今の、そういう話だろ?大事なことじゃねぇか」
「そそそうだけど」
「そうだね。桔平君の言う通り、大事なことだ」
真っ赤になる私をよそに、2人はいたって冷静な表情。ひとりで過剰反応して、なんだかバカみたい。でも父親にそういう話するなんて、恥ずかしすぎるでしょ。
「愛茉と桔平君を信用していないわけじゃないんだよ。ただ父親としては、きちんと言っておかないといけない。何かあった時に体にも心にも重い負担がかかるのは、愛茉なんだからね。しっかり避妊をしているつもりでも、万が一ということもある」
「万が一のことも考えています。その責任から逃げるつもりもありません」
桔平くんは、きっぱりと言い切った。そしてもう一度姿勢を正して、お父さんの顔を真っ直ぐ見据える。
「オレには、愛茉が必要です。愛茉がいれば自分の絵を描ける気がするし、ずっと一緒にいたいと思っています。ただ、もし……もし、描き続けるのが愛茉の幸せを奪うことになるのであれば、オレはすぐに絵を捨てます」
ビックリして、思いきり口を開けて桔平くんの顔を見た。
桔平くんにとって、絵はアイデンティティそのもの。それを捨てるなんて、軽々しく口にできることではない。それぐらい私にも分かるよ。だって桔平くんがどれだけ真剣に絵と向き合っているか、いつも見ているんだから。
私はその言葉の重みを感じて、こみ上げるものを堪えようと唇を嚙みしめた。
桔平くんと一緒に、頭を下げた。
学生の分際で同棲したいなんて、普通なら反対されるに決まっている。だけどひとりは怖い。あんな簡単に侵入されてしまうんだもん。もし家にひとりでいる時だったらって考えるだけで、体が震えてしまう。
ワガママなのは分かっている。東京でひとり暮らししたいって言ったのは私なのに。でもちゃんと、今の自分の気持ちを言わなくちゃ。もう嘘はつきたくないの。
お父さんはしばらくの沈黙の後、小さく息をついた。
「……分かった。どちらにしても、こんなことがあると僕も心配だからね。桔平くんと一緒なら、その点は安心できるよ。しっかりしているし、愛茉のことを大切にしてくれているから」
そこまで言って、穏やかだったお父さんの表情が、少し厳しいものに変わる。
「ただね、さっきも言ったけど、お互い学生なんだから。節度のある付き合いをしてほしいとは、思っているんだよ」
「避妊は毎回必ずしています」
「きっ、桔平くん」
間髪入れずに飛び出した桔平くんの言葉に、思わず声が裏返ってしまった。お、お父さんの前でそんなこと……。
「え?今の、そういう話だろ?大事なことじゃねぇか」
「そそそうだけど」
「そうだね。桔平君の言う通り、大事なことだ」
真っ赤になる私をよそに、2人はいたって冷静な表情。ひとりで過剰反応して、なんだかバカみたい。でも父親にそういう話するなんて、恥ずかしすぎるでしょ。
「愛茉と桔平君を信用していないわけじゃないんだよ。ただ父親としては、きちんと言っておかないといけない。何かあった時に体にも心にも重い負担がかかるのは、愛茉なんだからね。しっかり避妊をしているつもりでも、万が一ということもある」
「万が一のことも考えています。その責任から逃げるつもりもありません」
桔平くんは、きっぱりと言い切った。そしてもう一度姿勢を正して、お父さんの顔を真っ直ぐ見据える。
「オレには、愛茉が必要です。愛茉がいれば自分の絵を描ける気がするし、ずっと一緒にいたいと思っています。ただ、もし……もし、描き続けるのが愛茉の幸せを奪うことになるのであれば、オレはすぐに絵を捨てます」
ビックリして、思いきり口を開けて桔平くんの顔を見た。
桔平くんにとって、絵はアイデンティティそのもの。それを捨てるなんて、軽々しく口にできることではない。それぐらい私にも分かるよ。だって桔平くんがどれだけ真剣に絵と向き合っているか、いつも見ているんだから。
私はその言葉の重みを感じて、こみ上げるものを堪えようと唇を嚙みしめた。