ホウセンカ
「だから……お父さんがずっと大切に守ってきたものを、どうかオレにも守らせてください。何があっても、生涯かけて全力で愛茉を守ります」

 そう言って、桔平くんはまた頭を下げた。

 こんなのダメ。抑えられるわけがない。視界が一気に滲んで、俯いた途端に涙が床に落ちた。

 桔平くんの愛情も覚悟も、全部伝わってくる。これもう、プロポーズだよね。昨日私が言っていたことの返事だって、思っていいんだよね。
 2人で健康的に長生きしたい。笑顔で過ごしたい。まだ子供のくせにって笑われたっていい。良い時も悪い時も、ずっとずっと桔平くんと一緒にいたい。

 だってこんなに私を想ってくれる人なんて、他にいないもん。私にとって初めてで、たったひとりの大切な人だよ。

「……僕はね、愛茉の幸せが一番なんだよ」

 お父さんがしゃがみ込んで、桔平くんの肩に手を置いた。

「でも、親はいつまでも子供の傍にいることはできないからね。いつか必ず、親元以外で自分の居場所を見つける。父親としては寂しい気持ちもあるけど、君の傍にいることが一番の幸せだと愛茉が思うのであれば、僕はこの肩に預けるよ。君は頭も良くて冷静だから、本分を見失うようなことはないだろうしね」
「はい、ありがとうございます」

 ハッキリとした桔平くんの返事に、お父さんはニッコリ微笑む。そして今度は、もう片方の手を私の肩に置いた。

「愛茉も、分かっているね。遊ばせるために東京にやったんじゃないんだよ。たとえ将来結婚を考えているとしても、今はしっかりと自分の人間力を磨いて、地盤を固める時期なんだからね。学生の本分は勉強。それを忘れないように」
「はい、分かりました」

 必死に涙を堪えながら頷くと、お父さんは私と桔平くんの肩をポンポンと叩いて、よし、と声を上げながら立ち上がる。

「それじゃあ、マンションの解約は進めるからね。1ヶ月……それとも1ヶ月半後ぐらいがいいかな?」
「11月中旬に大学の研究旅行があるので、その前だとありがたいですね。まぁ必要なもんは大体ウチにあるし、あとは愛茉の家の家具とかをどうするかってのを考えるぐらいだよな?」
「うん、多分」
「分かった。管理会社と話したら、連絡するから。少しずつ準備を進めておきなさい。もちろん、学業優先でね」

 ああ、本当に同棲するんだ。お父さんに釘を刺された直後なのに、ついつい浮かれてしまいそう。でも桔平くんはいつも冷静だし、どんな時でも動じない。ちゃんと見習わなくちゃね。学業優先。お父さんとの約束は、しっかりと守らないと。

 それから、お父さんを見送るために慌ただしく羽田空港へ行った。すごく仕事が忙しいはずなのにすぐに来てくれて、とっても広い心で私と桔平くんを見守ってくれて。こんなに素敵な父親は、どこを探してもいないと思う。

 桔平くんのおかげで、少しはお父さんも肩の荷を降ろせたのかな。親離れ子離れって寂しいことではあるけれど、幸せになるためには必要なのかもしれない。近いうちに、お父さんの彼女も紹介してもらいたいな。
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