ホウセンカ
「桔平くんが貰った賞金でしょ?自分の好きに使ったらいいのに」
「オレは画材と本と……あとは服買うぐらいだからな。最近さ、袖とか丈が少し短くなったんだよ。背伸びたんかな」
「うん、多分伸びてるよ。またちょっと顔が遠くなった気がするもん」

 桔平くんはフィンランド人の血が混ざっているから、きっと20歳を過ぎても身長が伸びやすいんだと思う。今は185ぐらいあるのかなぁ。私も、もう少し身長が欲しい。

「愛茉の飯がウマいから、よく育つんだわ」
「私は育たないのに……」
「別のところが育ってんじゃね?」

 私の胸元をじっと見る桔平くん。いつもエッチなんだから。

「……とにかく、賞金は桔平くんの自由に使いなよ。私は別に、欲しい物ってないし」
「オレは愛茉のために使いたいんだよ」
「じゃあ、貯金!」
「えぇー、つまんねぇー」

 口を尖らせて、経済を回すためには個人消費がナントカカントカって早口でブツブツ文句を言っている。

 こういうところが、本当に可愛い。他の人には絶対に見せない姿だもん。

「大事な時のために、お金はとっておかなきゃ」
「臨時収入なんだから別にいいじゃねぇか」
「臨時収入でも、収入は収入だもん」
「こまけぇなぁ」
「そんな細かい女にプロポーズしたのは、どこの誰よ」
「だからプロポーズじゃねぇって」

 あれがプロポーズじゃないのなら、一体何なんだろう。桔平くんなりに、こだわりがあるみたいだけども。
 
「プロポーズって、結婚の約束だろ?まだそこまで言える器じゃねぇし。何ひとつ形になってないってのに」

 慣れた手つきで味噌を溶かしながら、桔平くんが言う。
 
「でも同棲させてもらうからには、将来をどう考えているかは伝えておくべきだろ。だからあれは決意表明なわけ。今のまんまじゃ、愛茉を一生守れる自信なんてねぇんだよ」

 なるほど。正式なプロポーズは、ちゃんと私を守れる男になってからってことなのかな。

「じゃあ、プレプロポーズ?」
「……まぁ、そういうことでいいわ」
「何年か後に、ちゃんと言ってね」
「おー、任せとけ。味噌汁、こんぐらいでいい?」

 差し出された味見用の小皿を受け取って、お味噌汁を口に含んだ。桔平くんが作るお味噌汁は、いつもそっくりそのまま私の味になる。それがなんだか嬉しかった。

 そしてキッチンカウンターに並んで座って、一緒に作った夕ご飯を2人で食べる。これからずっとこんな生活が続くんだと思うと、幸せな気持ちでいっぱいになった。
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