ホウセンカ
「卒業アルバムまで持ってきてんだな」
 
 食事の片付けが終わった後、桔平くんは私の家から持ってきた本を整理しながら、本棚へ入れてくれていた。

 小・中・高の卒業アルバムは全部、実家から持ってきている。だってそれは、私が私である証明だから。

「中、見ていい?」
「うん」
「……お、愛茉発見。よそ行きの顔で写ってんな」

 高校の卒業写真を、笑顔で眺める桔平くん。その横顔を見て、私は心を決めた。

 ずっとずっと隠していたこと。心の奥底にしまい込んで、自分でも見て見ぬフリをしていたこと。桔平くんには、ちゃんと話そう。きっと大丈夫。怖いのは、自分自身の感情だけ。

 私はもう、桔平くんに対して何も偽りたくない。

「あのね、桔平くん。話しておきたいことがあるの」

 隣に座って、桔平くんの顔をじっと見つめた。
 そして、ゆっくり深呼吸する。大丈夫、大丈夫と心の中で言い聞かせてから、口を開いた。

「桔平くんが今見ているのは、私の本当の顔じゃないの。私……私、整形してるから」

 桔平くんは卒業アルバムに視線を落としてから、もう一度私の顔を見る。
 
「高校の時と、全然変わってねぇじゃん」
「うん。整形したのは……子供の頃だから。6歳の時」

 さすがに桔平くんが驚きの表情に変わる。私は体の震えを抑えようと、拳に力を込めた。
 
「お……お母さんが……私の顔、嫌いで……」
「愛茉」
「だから……め、目を……」
「愛茉、無理すんな」

 蓋を開けた途端、一気に噴き出した。それを受け止めきれなくて上手く息が吸えなくなった私を、桔平くんが抱きしめてくれる。それだけで、呼吸が楽になった。
 
「私……本当は私の瞼、一重なんだよ。でもお母さんは私の目が嫌いで……昔の自分に似ているから……だから二重に……」

 お化粧みたいなもの。可愛くなるから。お母さんは、そう言った。はっきりと覚えているのは、それだけ。

 お母さんは自分の顔にコンプレックスがあって、若い頃から少しずつ整形を繰り返している人だった。特に嫌いなのが、重たく見える一重の目。そのせいで、相当辛い思いをしてきた。

 お母さんがそう話していたのを、こっそり聞いたことがある。お父さんの目は二重だから、私がお父さんに似てくれたら……って思っていたんだろうな。

 幼稚園ぐらいまで、お母さんは私のことをとても可愛がってくれていた。微かに、その記憶は残っている。

 だけど成長しても二重にならない私を見て、お母さんの心は追い詰められていったんだと思う。

 そして私の整形をきっかけに、お父さんとお母さんの仲は完全におかしくなった。
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