ホウセンカ
 お母さんは、お父さんに内緒で私に整形を受けさせた。それで言い争いになって、心が壊れかけていたお母さんは、負の感情の矛先を私に向けた。

 狭いコミュニティの中では、整形したことなんかはすぐに知れ渡る。それが原因で、私は学校でいじめられるようになった。

「本当はブスなんだろ」
「気持ち悪い目」
「整形オバケ」
「あんな親を持って可哀想」
 
 同級生からは心無い言葉を投げつけられて、その保護者には憐れみの視線を向けられる。どこへ行っても針の筵の上を歩いているようで、私はいつも傷だらけだった。

 学校から帰って泣いていても、お母さんは私を見ようとしない。お父さんは出張ばかりで、なかなか帰ってこられない。たまに帰宅すると、お母さんがお父さんを詰る声が聞こえる。

 そしてお母さんは、ついに精神を病んで実家へ帰ってしまった。お父さんが何度も訪ねて話し合いをしようと努力していたみたいだけど、結局私が10歳の時に離婚が成立する。

 お母さんが家を出てからは、釧路にある父方の祖父母の家に預けられた。だけどほとんど喋らず学校にも行きたがらない私に、祖父母も困り果てて。中学に上がるタイミングで、また小樽のお父さんの所へと戻った。私がそれを望んだから。

「当然小学校から知っている人もたくさんいたし、中学生になっても周りからは白い目で見られてたの。でも腫れ物扱いって感じで、直接的なにかを言われることはなくなった。話しかけられることも、なかったけど。だから心を殺して、お父さんに心配かけないように学校にはちゃんと通ってたの」

 桔平くんに抱きしめられたまま、ぽつぽつと昔のことを喋る。もう呼吸は苦しくない。

 二重にしたおかげで、私は誰が見ても美人だと言われる顔になった。
 だから整形のことを知らない人から告白されたことは、何度もある。でも周りが吹き込むの。あいつは整形モンスターだよって。そうしたら、一気に態度が変わる。

 ただ目を二重にしただけなのに。まるで全身を整形しまくっているように言われていた。

「高校は、家から2時間以上かかるところに進学したの。中学の同級生が誰もいないところ。だけどやっぱり人付き合いが怖くて、常に周りの目が気になって、前髪伸ばしてメガネかけてた。それで顔を隠していたら周りから気味悪がられて、結局いつもひとりだった」

 桔平くんが、黙って背中をさすってくれる。この体温を感じているから、こんな風に自分の過去と向き合えているのかもしれない。

 私の青春は、常に真っ暗で。光なんてどこにも見えなかった。
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