ホウセンカ
おまけのおはなし「なまらめんこいべ」
付き合い始めてすぐの頃。夕ご飯を作ろうとすると、桔平くんが手伝いを申し出てくれた。
「桔平くんって、お米は研げるの?」
「やったことはねぇけど、知識はある」
……やったことないんだ。まぁ、お米研ぐぐらいなら任せても大丈夫よね。
自炊はまったくしないって言っていなかったから、桔平くんの家のキッチンには本当に何もなくて。この前ようやく、包丁やフライパンを買った。炊飯器は私の家に置いていた物を持ってきている。
「したっけ研いだら、うるかしておいてね」
「……ん?」
「あ。ごめん、今の方言……」
しまった。つい気を抜いちゃって、思いっきり方言が出てしまった。東京に来る前、絶対に方言が出ないように一生懸命練習していたのに。
「へぇ、北海道の方言か。“したっけ”は分かるけど。うるかし……って何?」
「えっと、水につけておくってこと。うるかすって言うの」
「おっけー。んじゃ、研いでうるかしておくわ」
妙に嬉しそうな顔で言うのはなんで?
何となく心配で桔平くんがお米を研ぐ様子を横目で見てみると、ボウルに水を溜めてからお米を入れて、手で2、3回軽く回してすぐに水を捨てていた。
本当だ。ちゃんと知識がある。ボウルにお米を入れた上に水を入れる人も多いけれど、それをやると糠の匂いもどんどん吸収しちゃうのよね。
その後の手際を見ていても、完璧。桔平くんって、ちゃんとやればすごく料理上手になるんじゃないの?
まだ手伝いたいと言うので、桔平くんにはお味噌汁を作ってもらうことにした。……って言っても、具材を切るのは私。どうも包丁は使いたくないみたい。だけど昆布とカツオでの出汁の取り方もバッチリで、自炊したことない発言を疑いたくなるぐらいの手際の良さだった。
そんなこんなで、夕ご飯が完成。今日の夕ご飯は肉じゃが、サバの塩焼き、ほうれん草のおひたしです。定番の和食メニューで、桔平くんの胃袋を掴みます。
桔平くんのお味噌汁は少し薄かったから、私がお味噌を足して味を覚えてもらった。
「普段は全然方言出ないよな、そういや」
できあがったご飯を並んで食べながら、桔平くんが思い出したように言った。
「だって東京に来て方言で喋るなんて、恥ずかしいもん」
「そうか?可愛いと思うけどな。ちょっと方言で喋ってみてよ」
「い、いきなり言われても……」
方言のどこが可愛いの。田舎くさくて恥ずかしいだけなのに。
お父さんは方言があまり出ない人だけど、祖父母は訛りがひどい。だから結構うつっちゃってて、気を抜くと私も訛っちゃうんだよね。
「“なまら”って、やっぱ言うの?」
「うん……なまら言うべ……」
「え、すげぇ可愛い」
「ど、どこがめんこいべさ」
「やっべ。なまらめんこいな」
また嬉しそうな顔。だから何でなのよ。それに、イントネーションがちょっと違いますから。これだから東京の人は……。
「もう、ちょさないでよ」
「ちょさ?」
「からかわないでってこと。ちょすって、触るとかいじるって意味もあるの。スマホちょさないでよ!みたいな」
「なんだそのめんこい方言」
その後も方言で喋ることを要求されて、その度に桔平くんはニコニコしながら「なまらめんこいべ」と連呼していましたとさ。
***おわり***
「桔平くんって、お米は研げるの?」
「やったことはねぇけど、知識はある」
……やったことないんだ。まぁ、お米研ぐぐらいなら任せても大丈夫よね。
自炊はまったくしないって言っていなかったから、桔平くんの家のキッチンには本当に何もなくて。この前ようやく、包丁やフライパンを買った。炊飯器は私の家に置いていた物を持ってきている。
「したっけ研いだら、うるかしておいてね」
「……ん?」
「あ。ごめん、今の方言……」
しまった。つい気を抜いちゃって、思いっきり方言が出てしまった。東京に来る前、絶対に方言が出ないように一生懸命練習していたのに。
「へぇ、北海道の方言か。“したっけ”は分かるけど。うるかし……って何?」
「えっと、水につけておくってこと。うるかすって言うの」
「おっけー。んじゃ、研いでうるかしておくわ」
妙に嬉しそうな顔で言うのはなんで?
何となく心配で桔平くんがお米を研ぐ様子を横目で見てみると、ボウルに水を溜めてからお米を入れて、手で2、3回軽く回してすぐに水を捨てていた。
本当だ。ちゃんと知識がある。ボウルにお米を入れた上に水を入れる人も多いけれど、それをやると糠の匂いもどんどん吸収しちゃうのよね。
その後の手際を見ていても、完璧。桔平くんって、ちゃんとやればすごく料理上手になるんじゃないの?
まだ手伝いたいと言うので、桔平くんにはお味噌汁を作ってもらうことにした。……って言っても、具材を切るのは私。どうも包丁は使いたくないみたい。だけど昆布とカツオでの出汁の取り方もバッチリで、自炊したことない発言を疑いたくなるぐらいの手際の良さだった。
そんなこんなで、夕ご飯が完成。今日の夕ご飯は肉じゃが、サバの塩焼き、ほうれん草のおひたしです。定番の和食メニューで、桔平くんの胃袋を掴みます。
桔平くんのお味噌汁は少し薄かったから、私がお味噌を足して味を覚えてもらった。
「普段は全然方言出ないよな、そういや」
できあがったご飯を並んで食べながら、桔平くんが思い出したように言った。
「だって東京に来て方言で喋るなんて、恥ずかしいもん」
「そうか?可愛いと思うけどな。ちょっと方言で喋ってみてよ」
「い、いきなり言われても……」
方言のどこが可愛いの。田舎くさくて恥ずかしいだけなのに。
お父さんは方言があまり出ない人だけど、祖父母は訛りがひどい。だから結構うつっちゃってて、気を抜くと私も訛っちゃうんだよね。
「“なまら”って、やっぱ言うの?」
「うん……なまら言うべ……」
「え、すげぇ可愛い」
「ど、どこがめんこいべさ」
「やっべ。なまらめんこいな」
また嬉しそうな顔。だから何でなのよ。それに、イントネーションがちょっと違いますから。これだから東京の人は……。
「もう、ちょさないでよ」
「ちょさ?」
「からかわないでってこと。ちょすって、触るとかいじるって意味もあるの。スマホちょさないでよ!みたいな」
「なんだそのめんこい方言」
その後も方言で喋ることを要求されて、その度に桔平くんはニコニコしながら「なまらめんこいべ」と連呼していましたとさ。
***おわり***