ホウセンカ
「久しぶりの雪だぁ」

 新千歳空港から小樽方面へ向かう快速エアポートに乗り、窓の外を眺めながら愛茉が目を輝かせた。

 東京都心の初雪は、まだ観測されていない。降ったとしても、ほとんど積もらないだろう。数cmでも積もったら、メディアが大騒ぎをする。

 オレが生まれた鎌倉も普段は雪が少ない地域だが、たまに街が綺麗な雪化粧をする時があった。その時に必ず父親が絵を描いていたことは、やたら鮮明に覚えている。鎌倉の雪景色を描いたものは、浅尾瑛士の作品の中でも特に高く評価されていた。

「小樽築港で降りて、そこからタクシーに乗るからね。荷物預けたら朝里駅から電車で札幌まで行くよ」

 機内でたっぷり寝たからか、愛茉はやたら元気だ。さっきから、またずっと喋っている。

 今日の旅程を見てみると、赤れんが庁舎や札幌時計台、大通公園といった定番の観光スポット以外にも、ビール博物館、狸小路商店街、二条市場なんかも入っていた。他にはモエレ沼公園や札幌芸術の森美術館もあって、オレのためにスケジュールを考えてくれたのがよく分かる。そういえば、最近家でずっと調べ物していたもんな。今日は愛茉の案内に身を任せることにしよう。

 旅館に荷物を預けて身軽になった後は、愛茉が腕を組んでぴったり寄り添ってきた。やはり今日の愛茉は、かなり浮かれている気がする。

「ん~、やっぱり美味しい~!」
 
 札幌駅近くにある、北海道スイーツの老舗パーラー。昭和天皇・皇后両陛下のために特別に作られたアイスクリームを使用したパフェを口にして、愛茉が身を震わせる。甘いものはそんなに好きではないが、さすがにこのアイスクリームの味にはちょっとした感動を覚えた。ちなみにオレはパフェではなく、アイスクリーム単品。

 旅程には、どこで何を食べるのかもしっかり書いてある。愛茉は栄養ついて熱心に学びはじめて食事に関してやたらと口うるさくなっていたが、旅行の時は別らしい。

「ほら、見てー!おっきなツリー!」

 今度は商業施設にある巨大なクリスマスツリーを指さして、飛び跳ねながらはしゃいでいる。そうか、浮かれているのはクリスマスのせいもあるんだな。

 オレはイベント事にはまったく興味がないし、クリスマスなんて本来は浮かれるものじゃないと思っていた。それでも愛茉が楽しそうにしている姿が見られるのであれば、イベントも悪くない。

 はしゃぎながらも、順調にプランAの工程を消化できているので、愛茉は終始満足そうにしている。オレがひとりで訪れた時には行かなかった場所も多いので、なかなか新鮮だった。
< 151 / 408 >

この作品をシェア

pagetop