ホウセンカ
「こちら、里崎智美さん」

 お父さんに紹介されて頭を下げたそのふくよかな女性は、とても柔和な顔をしていた。

 話していても包み込むような温かさを感じる人で、最初は緊張していた愛茉もすぐに打ち解けて、もう満面の笑顔を見せている。

 昼食は、智美さんが仕出し屋のごとく大量に作ってきてくれたものを4人で食べた。かなり料理上手のようで、素朴ながらも上品な味付けの家庭料理に箸が進む。

「作るのも好きで、食べるのはもっと好きなの。だからこんなに太っちゃって」

 そう言ってあっけらかんと笑う姿を見て、お父さんがこの人を選んだ理由が、何となく分かった。

 年が明けてから、2人はこの家で同居を始める予定らしい。お互い再婚ということもあって、結婚式を挙げる予定はないそうだ。

 智美さんは若い頃に子宮の病気を患い、子供が持てない体だった。それが原因で前の夫と別れて以来、再婚する気は一切なかったというのに、お父さんと付き合ううちに気持ちが変わっていったらしい。

 愛茉はすっかり智美さんになついて、一緒におせち料理をつくる約束をしていた。智美さんの両親は既に鬼籍に入っているので、年末年始はどこにも行く予定がなかったという。

 2人が仲睦まじく会話する様子に、お父さんは心底安堵した表情を浮かべていた。

 そしてその夜。風呂から上がると愛茉はすぐに寝てしまったので、オレはお父さんと2人でゆっくりと酒を飲むことにした。
 
「桔平君がいてくれたおかげで、愛茉もリラックスできたようで良かったよ。実は少し心配だったからね」
「お父さんが選んだ人なら、愛茉とも相性はいいはずですよ」

 熱燗が喉を流れて、胃に沁み込む。この日本酒は当たりだな。お父さんも猪口を口に運んで満足そうな顔をしている。

「オレは母親の再婚相手と反りが合わないから、少し羨ましいです」
「子連れ再婚は、なかなか難しいからね」

 実感がこもった言葉だった。本来であれば、お父さんはもっと早く再婚したかったのかもしれない。

「でも桔平君のおかげで、ようやく我が家の時間が動き出した気がするよ。本当にありがとう」

 お父さんはそう言って、額がテーブルにぶつかりそうになるくらい深々と頭を下げた。
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