ホウセンカ
「ねぇ、今年の年末も北海道帰っていい?」
10日ぶりに東京へと帰る飛行機の中で、愛茉が遠慮気味に訊いてきた。それはつまり、またオレも一緒に来てほしいということだろう。
「そうだな。年末年始を過ごすなら、北海道の方がいいわ」
年が明けたばかりで年末の話をするというのも滑稽だが、愛茉となら、ずっと未来の話でもしていたい。家族とはきっとそういうものなのだろう。
そして東京に帰ってきた翌日。オレはひとりで横浜の実家へと向かった。
前にここへ来たのはいつだったか。もう覚えていないぐらい前のような気もする。訪いを入れると、昔から住み込みで家事を手伝ってくれている原田さんが、嬉々とした表情でリビングに通してくれた。
「まぁ、桔平!おかえりなさい!」
母のエリサは、今年で53歳になるとは思えないほど若い。久しぶりに顔を見ても老けたという印象はなかった。
「本條さんは仕事?」
「ええ、お仕事よ」
オレは義父のことを姓で呼んでいた。別に他意があってのことではないが、自分が浅尾姓のままだからというのも原因かもしれない。
決して懐かず、他人だと言わんばかりに自分を姓で呼ぶ再婚相手の連れ子。可愛いと思えるはずがない。それでも義父は、オレの高校や大学進学の支援をしてくれた。感謝してもしきれないぐらいの想いは持っている。
「これ、北海道土産」
「わぁ、ルタオね!ありがとう。私、大好きなのよ。お紅茶淹れるから、桔平も一緒に食べましょう」
「いや、オレはいいよ」
「ちょうど新しい茶葉を買ったの。淹れてくるから、待っててね」
人の話を聞かず、ドレスのようなワンピースの裾を翻してキッチンへと向かう。こういうところは、相変わらずだ。
他人の家のように感じるリビングでしばらく待っていると、オレが買ってきたドゥーブルフロマージュと紅茶を母が自ら運んできた。
「フィアンセのご実家に、ご挨拶へ伺ったんですって?」
ドゥーブルフロマージュに舌鼓を打ったあと、母が尋ねてきた。楓の奴、本当にそう言ったのか。
「帰省に付き合っただけ。あと、ついでに観光」
「あら、そうなの。結婚する予定だって楓ちゃんが言っていたけれど」
「先の話だよ」
それ以上訊くなというオレのオーラを感じ取ったのか、母は黙って紅茶を口に運んだ。愛茉のお父さんとは会話が弾むというのに、何故か肉親相手だと同じようにはいかない。
しばらくの沈黙の後、再び母が口を開いた。
10日ぶりに東京へと帰る飛行機の中で、愛茉が遠慮気味に訊いてきた。それはつまり、またオレも一緒に来てほしいということだろう。
「そうだな。年末年始を過ごすなら、北海道の方がいいわ」
年が明けたばかりで年末の話をするというのも滑稽だが、愛茉となら、ずっと未来の話でもしていたい。家族とはきっとそういうものなのだろう。
そして東京に帰ってきた翌日。オレはひとりで横浜の実家へと向かった。
前にここへ来たのはいつだったか。もう覚えていないぐらい前のような気もする。訪いを入れると、昔から住み込みで家事を手伝ってくれている原田さんが、嬉々とした表情でリビングに通してくれた。
「まぁ、桔平!おかえりなさい!」
母のエリサは、今年で53歳になるとは思えないほど若い。久しぶりに顔を見ても老けたという印象はなかった。
「本條さんは仕事?」
「ええ、お仕事よ」
オレは義父のことを姓で呼んでいた。別に他意があってのことではないが、自分が浅尾姓のままだからというのも原因かもしれない。
決して懐かず、他人だと言わんばかりに自分を姓で呼ぶ再婚相手の連れ子。可愛いと思えるはずがない。それでも義父は、オレの高校や大学進学の支援をしてくれた。感謝してもしきれないぐらいの想いは持っている。
「これ、北海道土産」
「わぁ、ルタオね!ありがとう。私、大好きなのよ。お紅茶淹れるから、桔平も一緒に食べましょう」
「いや、オレはいいよ」
「ちょうど新しい茶葉を買ったの。淹れてくるから、待っててね」
人の話を聞かず、ドレスのようなワンピースの裾を翻してキッチンへと向かう。こういうところは、相変わらずだ。
他人の家のように感じるリビングでしばらく待っていると、オレが買ってきたドゥーブルフロマージュと紅茶を母が自ら運んできた。
「フィアンセのご実家に、ご挨拶へ伺ったんですって?」
ドゥーブルフロマージュに舌鼓を打ったあと、母が尋ねてきた。楓の奴、本当にそう言ったのか。
「帰省に付き合っただけ。あと、ついでに観光」
「あら、そうなの。結婚する予定だって楓ちゃんが言っていたけれど」
「先の話だよ」
それ以上訊くなというオレのオーラを感じ取ったのか、母は黙って紅茶を口に運んだ。愛茉のお父さんとは会話が弾むというのに、何故か肉親相手だと同じようにはいかない。
しばらくの沈黙の後、再び母が口を開いた。