ホウセンカ
「どう思います?」

 翌日。バイト先の塾の控え室で、私はある人に意見を求めた。

「そういうの俺に訊いても、多分なんの参考にもならないよ」

 そう言って困り顔で頭を搔くこの超絶イケメンは、バイト仲間の香月壱弥《かつきいちや》さん。

 この時期になると塾の生徒だけじゃなくてその保護者からも大量にチョコを貰うという伝説を持っている人だと、事務のお姉さま方が言っていた。

 いつでも穏やかで人当たりが良くて優しくて、本当にかっこいいんだもん。それだけモテるのも納得のお人。だから絶対に恋愛経験も豊富なはず。

「その1日レッスンって、1万円かかるんですよ」
「たっか!そんなにするものなの?」
「結構、本格的なものだから。そうまでして作ったものを、ただの友達にあげます?」
「そうだねぇ……俺も友達の彼女からは、チロルチョコぐらいしか貰わなかったし。特別な感情がなければ、なかなかそこまではしないかもね」

 やっぱり、普通はそうだよね。高いレッスンに行ってまで作ったものを、ただの友達にはあげないよね。
 七海、もしかして翔流くんのこと本気なのかな?

「ちなみに、香月さんは彼女から手作りチョコもらうんですか?同棲してるんですよね」
「うん。え、なんで知ってるの?」
「ここに入った時、労務の高津さんから聞きました。めちゃくちゃイケメンの人がいるけど、歳上の彼女とラブラブ同棲中だから好きになっても無駄よ!って」
「なにそれ」

 香月さんが苦笑する。ああ、本当にかっこいいなぁ。
 これは浮気じゃないの。目の保養なの。こんなに完璧な男性はなかなかお目にかかれないし、芸能人の推し活のような感じ。ていうか、そこらへんの芸能人よりよっぽどイケメンなんだもん。

 それに香月さんはすごく話しやすいから、ついいろいろな相談をしてしまうのよね。

「男の人って、やっぱり手作りを貰いたいですか?」
「俺は別に、なんでもいいかなぁ。結局は気持ちの問題だし」
「気持ち、かぁ……」
「どっちにしても、友達のことは静かに見守ってあげた方がいいんじゃないかな。気になるだろうけど、周りからの変なプレッシャーで気持ちが頑なになっちゃうこともあるからさ」

 また釘を刺されてしまった。でも桔平くんと違って言い方がとても優しい。さすが香月さん。
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