ホウセンカ
「縁があるなら、自然と落ち着くところに落ち着くものだよ」
「彼氏にも同じこと言われました。他人のことに、首突っ込むなって……」
「そっか。感情って、すごく複雑だからね。まだフワフワしている段階で外からの力が加わると、変に歪んでしまうこともあるだろうし。だから姫野さんの彼も、そんな風に言ったんじゃない?」

 香月さんが、にっこり笑う。噂の必殺スマイル……確かに、これはとてつもなく破壊力ある。

 本当は私、こういう王子様みたいな人が好みだったはずなんだけどな。

 それが今では、桔平くんよりかっこいい人なんていないって思っている。目つきと口が悪くて変わり者な、私だけの王子様。そういう人と出会えたこと自体、奇跡なんだよね。

 現実は、少女漫画のように上手くいかないことばかり。そんなことは分かっているけれど。自分自身が少女漫画のような恋を経験してしまったから、大好きな友達にもそういう奇跡が起こればいいのにって願ってしまう。

 七海だけじゃない。翔流くんだって、桔平くんにとって大切な友達だし。そんな2人が上手くいってくれたらいいなって思うのは、やっぱりお節介なのかな。

「すげぇお節介だろ、どう考えても。たとえ大好物なものでも、周りから執拗に食え食え言われたらウンザリするじゃねぇか」

 帰宅してからまた七海の話をすると、桔平くんにバッサリと切り捨てられた。……優しくない。

 ううん、本当は分かってる。こんな風に言うのは、私が下手に首を突っ込んで他人の感情に巻き込まれてしまうのを心配しているから。桔平くんなりの優しさだって、ちゃんと分かっているの。

 でも、言い方よ。言い方が優しくないの。桔平くんらしいといえば、らしいんだけど。

「つーか、1万円もするチョコって。そっちにビックリだわ」

 桜吹雪に錦鯉が描かれた鮮やかな羽織を着ながら、桔平くんが言った。今日は米田さんや小林さんたちとのグループ展の打ち合わせで、渋谷へ行くんだって。

「案外、そんなものだよ。もっと高い教室もたくさんあるし」
「そんな高級なもんを翔流に食わせるなんて、なんか勿体ねぇな。あいつは甘けりゃなんでもいいんだぞ」
「それだけの気持ちがあるってことじゃないの?」
「だからさ。そうやって他人の気持ちを勝手に推し量るのがよくねぇって言ってんの」

 ため息まじりに言われて、なんだかとても悲しくなってしまった。

 言いたいことは分かる。でも一旦「そうかもね」ぐらい言ってくれてもいいじゃない。ワンクッションというか、オブラートに包むというか。思っていないことは口にできない人だから、仕方ないんだけど……。
< 169 / 408 >

この作品をシェア

pagetop