ホウセンカ
 七海は、いつ翔流くんにチョコを渡すのかな。自分のデートも楽しみだけど、そっちも気になる。

 こんなにいろいろな意味で気持ちが落ち着かないバレンタインは、初めてだった。というより、今までまったく縁がなかったしね。

 本当は私も早くお菓子を渡したくてウズウズしているけれど、やっぱりイベントは大事にしたいもん。我慢、我慢。

 というわけで、バレンタイン当日。
 お昼過ぎにゆっくり家を出て向かったのは、東池袋のサンシャイン水族館。私は初めて来るから、とても楽しみにしていた。

「見て見て桔平くん!クラゲ!きれい!」

 海月空感(くらげくうかん)というエリアでは大迫力のパノラマ水槽の中にいるたくさんのクラゲがライトに照らされて、最高の癒し空間が広がっていた。

「不思議だよな。脳がねぇのに生きてるって」
「え、クラゲって脳なし?」
「どう見てもねぇだろ。脳どころか心臓や血管もない。記憶や感動もなければ恐怖心も憎悪もなく、ただ神経の刺激のみで海に漂っているだけっつー生き物。5億6千万年前のカンブリア紀の大爆発で生まれた存在が今の時代にこんだけ綺麗に映るって、なんかすげぇよなぁ」
 
 桔平くんは本当に博識だから、私にいろいろなことを教えてくれる。子供の頃から信じられないぐらいたくさんの本を読んできたらしくて、その知識が全部頭に入っているんだって。

 でも必要以上に知識をひけらかすことはないし、基本的に私以外には披露しない。それは他人とのコミュニケーションが苦手なせいもあるみたいだけど、私にだけっていうのが嬉しい。

 水族館には他にも、サンゴ礁の水槽や「サンシャインラグーン」という海のように大きな水槽もあって、本当に見どころがたくさんある。

 館内2階にいたのは、アマゾンの水辺に暮らす生物。桔平くんはやっぱり、グリーンイグアナをじっと見つめていた。熱視線を注がれているグリーンイグアナもじーっと動かなかったし、その2ショットがなんだかとても可愛いくて笑っちゃった。

 水族館を出た後は、ディナーのお店の予約時間まで少し余裕があったから、表参道でウィンドウショッピング。インポートブランドのお店で、桔平くんはまた派手なジャケットを買っていた。

 そして表参道の創作イタリアンのお店で、少し贅沢なディナー。年末年始の北海道帰省で結構お金を使っちゃったから、おうちごはんで節約していたんだよね。

 久しぶりの外食は、とっても美味しくて。特に生ハムが最高すぎたから、桔平くんの分まで貰っちゃった。
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