ホウセンカ
 何となく気まずい空気が流れる中で注文をして、ミックスジュースとイチゴパフェが運ばれてきた後も、私は言葉を選びながら七海と会話した。

 桔平くんは素知らぬ顔で、ミックスジュースを飲みながらスマホをいじっている。相変わらず、指はずっとパタパタ動いていた。

「あれぇ、なんかお揃いで」

 私がイチゴパフェを食べ終える頃、いつものように呑気な口調で飛んで火にいる夏の虫……翔流くんが登場した。
 
「オレらのことは気にしねぇでいいから。ただ七海ちゃんに奢られに来ただけ」
「2人きりよりも、かけるんが正直に吐いてくれるかな~って思ってさ」
「なになに。なんか怖いんだけど」

 翔流くんは本当にいつも通りといった様子で、七海の隣に座る。私は内心ハラハラしていたけれど、できるだけ顔に出さないよう頑張っていた。

「あ、注文は後で大丈夫です~」

 翔流くんの注文を取りに来た店員さんに笑顔で言った後、七海の表情が変わる。ただならぬ気配を察して、翔流くんの顔が強張った。

「単刀直入に訊くけどさ。かけるん、なんで私とエッチしたの?」
 
 翔流くんの方に体ごと向けて、真っ直ぐ顔を見ながら七海が切り出す。ズバッときた……。
 
「え?な、なんでって」
「そして私とは何事もなかったみたいに彼女を作ってるのは、一体なんで?」

 ……怖い。怖いって、七海。翔流くんの目が、めちゃくちゃ泳いでいる。この時点で、2人の力関係がよく分かった。
 
「……いや、だってさ。ななみんは、俺のことなんとも思ってないわけでしょ?いつも、都合の良い友達みたいな扱いじゃん」

 七海が、愕然とした表情で翔流くんを見つめる。好きな人からそんなこと言われたらショックだよね。そして翔流くんは、七海と目を合わさずに俯いたまま。

 誰も口を開かない。空気が鉛のよう……。

「質問に対する回答になってねぇぞ、翔流」

 沈黙を破ったのは、桔平くんの静かな声だった。翔流くんを射貫くように見据えている。

 翔流くんは桔平くんの視線に気圧されて息を呑んだ後、ひとつふたつ小さく頷いた。そしてちゃんと七海の顔を見ながら、ゆっくり口を開く。

「俺は……前から、ななみんのこと好きだったよ。好きでもない子に、手出すわけないじゃん」

 やっぱり、翔流くんは七海のこと好きだったんだ。しかも前からって。七海にその気がまったくなさそうだから、諦めてたのかな。何それ、切ない。

「本当はあの時、酔ってなかったし。ズルいことしたのは分かってるけど、でもそれで終わろうと思ってたんだよ。キッパリ気持ち切り替えようって。だから、別の人と付き合ってみたっていうか」

 苦笑いで、翔流くんが頭を掻く。
 
「でもさっき、フラれちゃった。他に本命の人がいて、そっちと上手くいったんだって。ひどくね?2日しか経ってないのに。俺はキープだったみたいでさぁ」

 え、ということは。
 どうしよう、ドキドキしてきた。目の前で、すごいことが起きようとしている気がする。桔平くんは、また知らん顔になっているけれど。
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