ホウセンカ
 小林さんの作品は鳳凰や鶴、孔雀……全部鳥なんだ。大学祭の時の展示は、確かカワセミだったよね。桔平くん曰く、鳥類を描かせたら小林さんはピカイチなんだって。

 そして桔平くんの絵は……相変わらず壮大なのに繊細で、前に立つと圧倒的なエネルギーのようなものを感じた。
 アメリカのニューメキシコにある純白の砂漠・ホワイトサンズに夕日が沈む風景。土ボタルたちの光に青く照らされるニュージーランドのワイトモ鍾乳洞。スイスの名峰マッターホルンを鏡のように映し出すリッフェル湖。そして日本の石川県にある「聖域の岬」と呼ばれる珠洲岬の夜景。

 自然が生み出す壮大な美が鮮やかに描かれていて、息をするのも忘れてしまいそうなほど見入ってしまった。

「今回描いたのって、どれ?」
「ホワイトサンズ」

 そういえば、大学祭の時に展示していたアンテロープ・キャニオンには去年の春に行ったんだっけ。その時にここにも寄ったのかな。
 1本だけ生えているユッカの葉も、沈む夕日に照らされている。それがまたとてもエモーショナルな感じで、胸がキュッとなった。桔平くんにとっての“希望”って、自然そのものなのかな。

「あとは、こっちが……」
「なぁ、浅尾。これってさ」

 桔平くんが続きを案内しようとすると、奥のドアから黒縁メガネの男性が出てきた。何かの書類を桔平くんに見せようとしたところで、私の顔を見てピタリと動きを止める。

 え、なになに。すごく凝視してくるんですけど。しかも沖縄の人っぽい顔立ちで、やたらと目力が強いし。こ、怖い。

「長岡、なに」

 桔平くんが視線を遮るように私の前に立って、感情のない声で言った。
 
「え、あ、いや、悪い。案内してるんなら後でいいよ」
「ヒデちゃん。その超絶美女はねぇ、浅尾きゅんの彼女の愛茉ちゃんだよー」

 トコトコとヨネちゃんが近寄ってくる。
 長岡?ヒデちゃん?と呼ばれたその人は、中指でメガネを押し上げながら慌てて私から目を逸らした。

「あ、ああ……そういや学祭の時、噂になってたな。浅尾が芸能人みたいな彼女連れてきたって」
「そうそうー!しかもぉ、ちょおラブラブだからねぇ」
「愛茉。こいつも同級生。長岡英哉」

 桔平くんが紹介してくれると、長岡さんは私に軽く会釈をする。目を合わさずに。
 
「あー、お、俺ちょっと、コンビニ行ってくる」

 何故か動揺した様子でそう言い残して、長岡さんはそそくさとギャラリーを出て行ってしまった。……私、何かした?
 小林さんも、不思議そうに首を傾げている。
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