ホウセンカ
「浅尾きゅんはねーいつも成績トップなんだけどねー。常に淡々としていて自分の絵と真面目に向き合っててー。私も一佐くんも浅尾きゅんのそういうところ、とぉっても大好きなんだよねー」

 ヨネちゃんも小林さんも、ひとりの画家として桔平くんのことを尊敬している。それがすごく伝わってきた。まるで自分が褒められているみたいで、なんだかくすぐったいな。

「いつも無表情だし素っ気ないけどねー。最近は向こうから話しかけてくれることも増えてきて嬉しいんだぁ。あっ!でも恋愛感情とかないから安心してねぇ!私ちゃーんと彼氏いるからぁ」
「そうなんだ!どんな人なの?」

 ヨネちゃんの恋バナ、とっても興味ある。思わず身を乗り出すと、ヨネちゃんはまたメガネを上下して頬を赤く染めた。この仕草って癖なのかな。可愛い。
 
「んふふぅ。5歳年上でぇ、一緒に住んでるのー」
「じゃあ同棲仲間だ」
「えー!浅尾きゅんと同棲してるのー!?いつの間にー!?」
「まだ4ヶ月ぐらいだけど……」
「やぁだー!どうりで浅尾きゅんの機嫌がずっといいわけだぁー!」

 またメガネを曇らせながら、ヨネちゃんがコーヒーを飲んだ。

 ヨネちゃんの彼氏は、大手出版社に勤めているんだって。バイト先のカフェの常連さんで、何となくいいなぁって思っていたら向こうから告白されて付き合い始めたみたい。彼氏はきっと、この超絶癒しオーラに惹かれたんだろうな。

 東京に来るまで女友達がいなかった私にとって恋バナはすっごく楽しくて、思いもよらずヨネちゃんと盛り上がってしまった。

 すると部屋のドアが開いて、長岡さんが顔を出した。
 
「……あ。悪い、盛り上がってたのに」

 気まずそうな表情でドアを閉めようとする長岡さん。ヨネちゃんは、おいでおいでと手招きした。
 
「ヒデちゃん、いいよぉーおかえりぃー」
「えっと……ヨネ、友達来てるよ」
「まじでぇ?ちょっと行ってくるから、愛茉ちゃんはゆっくりカフェオレ飲んでてぇー!浅尾きゅん呼んでくるしー」
「あ、うん。ありがとう」

 ……で、長岡さんと2人きりになってしまった。
 コンビニの袋をテーブルに置いて、長岡さんは私から一番遠い椅子へ座る。あからさまに避けてない?

「……あ、浅尾の彼女って」
「は、はい!」

 いきなり話しかけられて、思わず声が裏返っちゃった。
 
「いつから?」
「え……去年の6月から……です」
「……なら違うか」
「え?」
「いや……なんか一時期かなり調子悪そうで、悪い女に引っかかってるって噂が……」

 悪い女?何それ。
 そういえば一時期顔色がかなり悪かったって、上野の喫茶店のマスターが言ってたよね。確か楓お姉さんも。そんなにひどい人と付き合っていたのかな……。
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