ホウセンカ
「そう言えば合コン抜け出したこと、友達に何も言われなかった?」
「あ、うん。大丈夫」
「それなら良かった。でも、ホテル行ったって思われてたんじゃね?」
「う、うん……」
「まぁ、普通なら行くよな。本当はオレも連れ込みたかったし」

 思わず目を見開くと、浅尾さんが小さく吹き出す。

「冗談だよ、そんな顔すんなって」

 本当に冗談か、実は本気なのか……全然分からない。

 絶対、いろんな女を知ってる。七海の言葉を思い出す。こんな風に余裕を見せているのは、やっぱり経験が豊富だからなのかな。
 
「……浅尾さんって、あの人たちとは仲良いの?一緒に合コン来た人たち」
「幹事やってた奴いるだろ、楠本翔流(くすもとかける)っての。あいつは高校からの友達だけど、他の2人は別に仲良いわけじゃねぇな。普通って感じ」

 楠本さんの顔は覚えている。浅尾さんとは対照的に、理詰めが得意な理系男子って雰囲気だった。
 
「でも、みんな同じ大学なんでしょ?」
「いや、オレはあいつらと同じじゃないよ。言ってなかったっけ」
「え?全員同じ大学って言ってたような……」
「そうだっけ?覚えてねぇな。他3人は同じだけど、オレは藝大だよ」
「藝大?え、東都藝大?」
「そう。証拠、見る?」

 浅尾さんは、カードケースから学生証を取り出した。

 今より髪が短くて少し幼い感じだけど、写っているのは確かに浅尾さんで、間違いなく「東都藝術大学」って書いてある。所属は美術学部で、絵画科……つまり、浅尾さんは絵を描く人ってこと?

「……現役合格?」
「うん。これでも真面目に通ってるし、留年もしてない」

 東都藝術大学と言えば、東都大学よりも入るのが難しいって言われている超難関の国立大でしょ。ある意味で“本当の天才”が集まる場所だって話だけど。

 もしかして、浅尾さんってすごい人なのかな。
 
「浅尾さん、絵描きだったんだね」
「ただの遊んでる大学生と思ってた?」
「そんなことは……少し、あったけど」
「まぁ、よく言われるけどね、チャラいって。こんな見た目だし?」

 浅尾さんは、悪びれもせずに言った。一応そこは自覚しているのね。
 でも藝大生と聞いて、浅尾さんが独特の雰囲気を持っている理由が分かった気がする。
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