ホウセンカ
「でも本当に素敵だったなぁ、長岡さんの美人画。女性に免疫ないのに、よくああいう絵が描けるよね~」
「まぁある意味、童貞だからこそ描ける感じはあるな」
「なんで?」
「女を知ったら、あんな綺麗にゃ描けねぇよ。愛茉に惚れるのも、上っ面の透明な部分しか見えてねぇからだろ」
「……やっぱり妬いてない?」
「なんでだよ。妬いてねぇよ」
「こっち見て言って」

 桔平くんが手を止めて、相変わらず真っ直ぐで綺麗な瞳を私に向けた。
 
「……可愛い」
「そ、そうじゃなくて!」
「だって、すげぇ可愛いんだもん。キスしていい?」

 言いながら、両手で私の頬を包み込んで引き寄せる。
 
「ち、ちょっと、今はだめ。食事中でしょ」
「いいじゃん。同じもん食ってんだし」
「そういうことじゃ」
「こっちも食いたいの」
 
 有無を言わさず、唇を押し付けられた。
 頬に添えられている両手は優しいけれど、逃がさないと言わんばかりにガッチリとホールドされている。普段は強引なことなんてしないくせに。こういう時だけ、ずるい。

 ドレッシングの味が口の中に広がった。なんだかんだで受け入れてしまう私は、やっぱり桔平くんに弱いんだなぁ。

「……結局、妬いたってことね?」

 しばらくして唇が離れた後、めげずに突っ込んでみた。
 
「相変わらず欲しがるねぇ」
「だって……お前はオレだけ見てりゃいいんだよ!みたいなの、憧れなんだもん」
「なんだよそれ」
「よくあるじゃない、少女漫画とかで。ちょっと俺様っぽい男の子が、独占欲むき出しにする感じ」
「ふ~ん?そういうの好きなわけ?」
「好きっていうか。一度は言われてみたいかなぁって」
「んじゃ、言ってやるよ。一度だけな」

 桔平くんが、また両手で私の頬を包んだ。さっきまでとは打って変わって、獲物を狩る豹みたいな瞳で射抜かれる。

「他の誰が愛茉を好きになろうが、愛茉はオレだけのものなんだよ。手つなげるのもキスできるのも抱けるのもオレだけ。愛茉が受け入れるのは後にも先にもオレだけ。それが変わることは永遠にない。だからヤキモチなんか妬かねぇの。オーケー?」

 あ、どうしよう。心臓を鷲掴みにされたかもしれない。

「返事は」
「は、はい」
「よし、飯食おう」

 何事もなかったかのようにニッコリ笑って、桔平くんはまたサラダを食べはじめた。
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