ホウセンカ
 その中でも、こいつらは群を抜いて頭がおかしい連中だと思う。そうでなきゃ、オレのような人間に関わるわけがない。

 周りの同級からも敬遠され疎まれていた子供の頃が、嘘のようだ。

 あの頃は勝手に傷ついて、勝手に遠ざけていた気がする。結局、オレには狭い世界しか見えていなかった。世の中にはこんなふざけた連中が大勢いるということを、知らなかっただけだ。

 あれだけ世界を旅したのにそのことに気付けなかったのは、オレ自身が壁を作っていたからにすぎない。

 ただ、こいつらも翔流も、その壁を平気で乗り越えて周りをチョロチョロと動き回る。踏み込まれるのは嫌いなはずなのに、それを不快に感じないのが不思議だった。

「そういえば……一佐の“ミクちゃん”って、いつ来るわけ?」

 どうしてその話題を掘り返すんだよ、長岡。せっかく小林の独演会が閉幕したというのに。
 待ってましたと言わんばかりに、小林の両眼が輝いた。

「いやっ!ホワットタイムイズイット!?」
「イッツフォーピーエーム!」
「オーウ、センキューヨネ!」
「ユアウェルカーム!」

 突然、似非外国人が増殖した。中学生英語だな。

「ミクちゃん、そろそろ来るんちゃうかなぁ!4時過ぎぐらいって言うてたわ!いやっ!どうしよっ!」

 小林がギャラリー内をウロウロしはじめる。ほら、また始まった。

「な、なぁヨネ。お、おれの髪、乱れとらん?」
「大丈夫ーバッチリー!いつも通り、燃えるように真っ赤だよぉー!あっちっちよー!」
「ヒデ、おれのメイク、崩れとらん?」
「め、メイク?……し、してなくない?」
「浅尾っち、おれの服、おかしない?」
「おかしいだろ」

 小林はいつも変なTシャツを着ている。今日は“プテラノ丼”という文字の下に、丼に入った恐竜が描かれたものだった。それで好きな女と初めて対面するのか。それでいいのか、小林。
 
「いやっ!浅尾っちに言われたないっ!ド派手星人めっ!」
「オレはいいんだよ。似合ってるから」
「いやっ!その通り過ぎて、なんも言えねぇっ!」

 体をのけ反らせて天を仰ぐ小林を見て、長岡が口元を抑えながら体を震わせる。本当に、変なヤツばかりだ。
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