ホウセンカ
アストロメリアのプレゼント
 私の大学には、教養学部しかない。そして入学時には学科を選ばず、1年次は幅広い学問に触れて、2年へ進級する時に9つの学科・専攻から学びたい分野を決めるシステムになっている。

 この大学を選んだのは、そういう特徴的なカリキュラムになっていたから。

 高校生の頃の私には将来の夢なんてなくて、なりたい職業どころか勉強したい分野も思い浮かばなかった。とにかく地元から遠く離れることを考えていただけ。
 だから、やりたいことを見つけるためにこの大学へ行きたいと、お父さんに頼み込んだ。

 そうはいっても、はじめは不安しかなかった。こんな私に、本当にやりたいことが見つかるのかなって。だけど上京してたくさんの人たちと触れ合うなかで、何となくひとつの道が見えてきた気がするの。

「へぇ。教育学科か」

 私の頭を撫でながら、桔平くんが優しく微笑んだ。下から見てもやっぱり綺麗な顔だなぁ。

 寝る前のベッドでのゴロゴロタイムは、いつもいろいろなお喋りをする。そして最近は、桔平くんの膝枕で猫のように甘えるのがマイブームなのです。
 
「うん。バイトで子供たちに教えるの、すっごく楽しくてね。教育についてちゃんと勉強したいなぁって」
「そっか」
「……どう思う?」
「良いと思うよ。愛茉は細かい部分を気にするから丁寧に教えそうだもんな。それにその細かさを人に押しつけねぇし。そういうところ、すげぇ尊敬してる」

 尊敬……桔平くんにそんな風に言われたのは、初めてかもしれない。好きって言われるのとは違う嬉しさがあるな。

 ちなみに、七海も同じ学科へ進む予定。もともと教員免許を取りたかったんだって。

「桔平くんは、4年生になったらどうなるの?」
「どうなるってー?」
「学校行く時間は減る?」
「うーん、特別演習とか制作があるからな。制作は学校のアトリエでやんなきゃなんねぇし、基本あんま変わらん感じ。前期は自由制作出して人体デッサンもして……そんで、後期はガッツリ卒業制作」

 そっか。そのまま藝大の大学院に進学するとはいえ、大学自体は卒業するんだもんね。卒業制作かぁ。4年間の集大成になるわけだから、規模が大きそう。

「卒業制作って、やっぱり時間かかるの?」
「かかるだろうなぁ。150号サイズだし」
「150……って、どのくらいなのかな」
「オレの身長よりでかい。この前のグループ展ので100号サイズだよ」
 
 100号でも結構大きいと感じたんだけど……桔平くんの身長より大きな絵って、なんだかすごいな。私は背が低いから、余計に圧倒されそう。

 卒業制作は卒業・修了作品展として、来年1月末に一般公開されるんだって。ヨネちゃんたちの絵も観られるから、とっても楽しみ。
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