ホウセンカ
「……で、何とか絞り出してもらったのが、レザーのカードケース」
「あーね、いいじゃん。そういや浅尾っちって、現金持たない人なんだっけ?」
「うん。でも念のため少しは持っててってお願いして、1万か2万くらいはカードケースに突っ込んで持ち歩くようになったよ」
今のカードケースは、高校の頃から使っているみたい。別に思い入れがあるというわけではなく、使えるからずっと使っていたとのこと。
桔平くんはオシャレだし、着ている服はインポートブランドのお高いものが多いから、安っぽいカードケースを持たせるわけにはいかない。このためにバイト代を節約してきたから、ちょっと奮発するつもり。
というわけで、百貨店の紳士服売り場へ。お父さんへのプレゼントを買う目的以外で来ることはないから、少し緊張しちゃうな。
「やっぱりカードケースも派手なのがいいわけ?」
「黒は嫌だって。赤が良いって言ってた」
「ほんっとに徹底してモノトーンを身につけないよね、浅尾っち。面白いわぁ……あれ?」
七海が遠くに視線を向けて立ち止まった。
「どうしたの?」
「あのやたら目立つモデル風美女って、もしかして……」
その視線の先を追うと、紳士服ブランドの店先でネクタイを手に取っている長身の女性がいた。小顔を引き立てるベリーショートの黒髪に、すらりと伸びた手足。そこにいるだけで、映画のワンシーンみたいに見える迫力美人。
私たちが近づくと、その女性……楓お姉さんが振り返った。
「あら!愛茉ちゃんと……翔流の友達よね?こんにちは」
「こ、こんにちは。楓お姉さん」
「あ、私、園村七海です。えっと……翔流の友達から、彼女に変わりました」
珍しく照れながら七海が言うと、楓お姉さんの表情がパッと明るくなる。
「そうだったの!それは良かったわねぇ。翔流も弟みたいなものだから、嬉しいわ」
そういえば翔流くんも“楓姉ちゃん”って呼んで懐いている感じだったっけ。楓お姉さん、面倒見がよさそうだもんね。だけど私は、まだ緊張しちゃう。
「それにしても、珍しいところで会うわね。私は紳士服のトレンドをチェックしに来たんだけど、愛茉ちゃんはお父様へのプレゼントでも選びに来たの?」
「あ、えっと……桔平くんの誕生日プレゼントを……」
「あぁ、そういえば今月誕生日だったわね、あの子。そんなに高いもの買わなくていいのよ?愛茉ちゃんからのプレゼントなら、道端の石ころだって喜ぶでしょう」
そうかもしれない……なんて、自分でも思ってしまった。それぐらい、桔平くんに溺愛されている自覚はある。
だけど本当に石ころをあげるわけにいかないしね。クリスマスにあげたピアスもそうだし、私が選んだものを毎日長く使ってほしいもん。
「あーね、いいじゃん。そういや浅尾っちって、現金持たない人なんだっけ?」
「うん。でも念のため少しは持っててってお願いして、1万か2万くらいはカードケースに突っ込んで持ち歩くようになったよ」
今のカードケースは、高校の頃から使っているみたい。別に思い入れがあるというわけではなく、使えるからずっと使っていたとのこと。
桔平くんはオシャレだし、着ている服はインポートブランドのお高いものが多いから、安っぽいカードケースを持たせるわけにはいかない。このためにバイト代を節約してきたから、ちょっと奮発するつもり。
というわけで、百貨店の紳士服売り場へ。お父さんへのプレゼントを買う目的以外で来ることはないから、少し緊張しちゃうな。
「やっぱりカードケースも派手なのがいいわけ?」
「黒は嫌だって。赤が良いって言ってた」
「ほんっとに徹底してモノトーンを身につけないよね、浅尾っち。面白いわぁ……あれ?」
七海が遠くに視線を向けて立ち止まった。
「どうしたの?」
「あのやたら目立つモデル風美女って、もしかして……」
その視線の先を追うと、紳士服ブランドの店先でネクタイを手に取っている長身の女性がいた。小顔を引き立てるベリーショートの黒髪に、すらりと伸びた手足。そこにいるだけで、映画のワンシーンみたいに見える迫力美人。
私たちが近づくと、その女性……楓お姉さんが振り返った。
「あら!愛茉ちゃんと……翔流の友達よね?こんにちは」
「こ、こんにちは。楓お姉さん」
「あ、私、園村七海です。えっと……翔流の友達から、彼女に変わりました」
珍しく照れながら七海が言うと、楓お姉さんの表情がパッと明るくなる。
「そうだったの!それは良かったわねぇ。翔流も弟みたいなものだから、嬉しいわ」
そういえば翔流くんも“楓姉ちゃん”って呼んで懐いている感じだったっけ。楓お姉さん、面倒見がよさそうだもんね。だけど私は、まだ緊張しちゃう。
「それにしても、珍しいところで会うわね。私は紳士服のトレンドをチェックしに来たんだけど、愛茉ちゃんはお父様へのプレゼントでも選びに来たの?」
「あ、えっと……桔平くんの誕生日プレゼントを……」
「あぁ、そういえば今月誕生日だったわね、あの子。そんなに高いもの買わなくていいのよ?愛茉ちゃんからのプレゼントなら、道端の石ころだって喜ぶでしょう」
そうかもしれない……なんて、自分でも思ってしまった。それぐらい、桔平くんに溺愛されている自覚はある。
だけど本当に石ころをあげるわけにいかないしね。クリスマスにあげたピアスもそうだし、私が選んだものを毎日長く使ってほしいもん。