ホウセンカ
「なにか予定ある?」
「い、いえ。ありませんけど……」
 
 桔平くんの誕生日前日だし、その日はバイトも入れていなかった。
 ていうか、ご実家ということは、当然親御様がいらっしゃるわけで……。
 
「愛茉ちゃんを連れてくるって約束したのに、また桔平から音沙汰ないって、母が嘆いていたのよ。その日は父もいるから、桔平と一緒にいらっしゃい。みんなでランチを食べましょう」
「お、お父様もですか?」
「いいじゃん、愛茉。晴れて親公認になるわけだし」

 七海は軽く言うけれど、桔平くんのご実家は一般家庭じゃないのよ。私みたいな庶民の娘がお邪魔するなんて、絶対に場違いでしょう。
 
「で、で、でも、何着て行けば」
「今みたいな、普段の可愛い愛茉ちゃんでいいのよ。どうせ桔平も、いつも通り派手な服で来るでしょうし。とりあえず帰ったら桔平に話しておいてくれるかしら?あの子、私が電話しても5回に1回くらいしか出ないから。あ、連絡先を交換しておきましょう」

 な、なんだか有無を言わさない雰囲気がある。

 とりあえずLINEを交換して、楓お姉さんは颯爽と去っていった。
 横浜のご実家かぁ。年明け、小樽土産を渡すために久しぶりに帰省したらしいけど……桔平くん、嫌がるんじゃないかなぁ。

 少々不安になりながら、帰宅してから今日の出来事を話した。

「別にいいけど」

 あれ、意外な反応。なんだか拍子抜け。

「実家に帰るの、嫌じゃないの?」
「そのうち愛茉を連れていかねぇとって、もともと思ってたからな。昼ならそんなに遅くならず帰ってこれるし」

 良かった。義理のお父様と反りが合わないと言っていたし、気になっていたんだよね。桔平くんの中で、複雑な感情が和らいできたのかな。

「楓に連絡するんだろ?」
「うん」
「手土産なにがいいか訊いといて」

 あ、そっか。手ぶらじゃ失礼よね。さすが桔平くん。

 ていうか、本当に洋服どうしよう。普段通りと言われても、やっぱりできるだけちゃんとしておかなきゃ。印象がいい洋服、ネットで調べておこう。

「あ、そうだ。桔平くん」

 ふと楓お姉さんの言葉を思い出して、床に座り込んで画材を整理している桔平くんの前で両腕をひろげた。

「……なに」
「楓お姉さんがね、スキンシップは毎日取りなさいって」
「毎日セックスしろって?」
「違うー!ハグ!」

 どうして桔平くんって、いつもエッチな方向にいくのかな。さらっと恥ずかしいこと言うし。
 
「ハグもキスも、毎日してんじゃん」
「今日のぶんは、まだです」
「んじゃ、おいで」

 座ったまま両腕をひろげる桔平くんの胸に、思いきり飛び込む。
 ああ、いい匂い。こんなに落ち着くのは、ベターハーフだからなのかな。
< 217 / 408 >

この作品をシェア

pagetop