ホウセンカ
 高円寺から横浜のご実家までは、大体1時間ぐらい。駅から少し歩くから車で向かっているんだけど、近づくにつれて、本当に口から心臓が飛び出そうになってきた。だって周りの建物が、豪邸ばかりなんだもん。

 そして到着したのは、映画に出てきそうな白亜の豪邸。美しいシンメトリー建築の建物と、お庭に咲く色とりどりの花のコントラストが、まるで絵画のよう。想像していた以上に立派で、言葉が出てこなかった。

「桔平さん、おかえりなさいませ」

 玄関で、綺麗な身なりをした50代くらいの女性が出迎えてくれた。桔平くんが子供の頃から住み込みで働いている、原田さんという方らしい。

「はい、土産。こっちは原田さんの分」
「まぁまぁ。わざわざお心遣いありがとうございます」
 
 手土産に持ってきたのは、お母様が好きだという、銀座にある洋菓子店のフロランティー。桔平くんは、ちゃんと原田さんの分を別にして買っていた。子供の頃から、すごくお世話になっているんだって。

 原田さんが奥の部屋に入ると、入れ違いで別の女性が出てきた。

「おかえりなさい、桔平!」

 宝石を散りばめたように輝くブロンドに、まるで陶器みたいな白い肌。花が咲いたような笑顔を浮かべて、上品なレースワンピースの裾を翻しながら駆け寄ってくる。もしかして、この方が……?

「母のエリサ」

 桔平くんが私に向かってボソっと言った。
 え、ちょっと待って。桔平くんのお母様、おいくつなの?お肌が綺麗すぎるんだけど。シミもシワもなさすぎ。小顔すぎ。美人すぎ。

 いやいや、まず挨拶よ。しっかりしなきゃ。
 
「は、はじめまして!ひめっ、姫野愛茉と、も、申します」

 もうヤダ。練習したのに。またどもっちゃった。
 
「ほ、本日はお招きにあずかり光栄で……」
「まぁっ!なんって愛らしいお嬢様なの!もっとお顔をよく見せてくださる?」

 お母様が腰をかがめて、超至近距離で私の顔を真っ直ぐ見つめてきた。瞳の色は桔平くんと同じグレー。やっぱり透き通っている。ていうか、どうしよう。目を逸らしたら失礼だし。でもでも近い。近すぎる。
 
「ああああの」
「……母さん、愛茉が怯えてる」
「あら、ごめんなさい。あまりにも可愛くて、つい」

 両手で口元を抑えて慌てて後ずさるその姿は、成人している子供が3人もいる母親には見えない。10代の少女のような可愛らしさがある女性だと思った。
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