ホウセンカ
「さぁ、2人とも座って座って。こちらよ」

 2席並んだ椅子に着座を促されたけれど、こっちって上座じゃないの?え、ここでいいの?失礼にならない?ど、どうしよう。

「気にすんなよ。座れって言われたんだから」

 私が狼狽えているのを見て、桔平くんが言う。そして、さっさと席に着いた。い、いいのかな……。

「やあ、桔平君。久しぶりだね」

 仕方なく椅子に座ったところで、背が高くて柔和な顔つきのおじさまが部屋へ入ってきた。
 座ったばかりだったけれど、桔平くんはすぐに立ち上がって頭を下げる。私も慌てて立ち上がった。
 
「本條さん。すっかりご無沙汰してしまって、すみません」
「いやいや。エリサや楓から、元気そうだとは聞いていたからね。この前も、コンクールで金賞を受賞したそうじゃないか」
「はい、おかげさまで……」

 反りが合わないというか、なんだか他人行儀な感じ。子供の頃に再婚した割には、苗字呼びで敬語だし。どちらかというと、桔平くんの方から距離をとっているように見える。桔平くんにとっての父親は、浅尾瑛士さんひとりだけという意識があるのかもしれない。

 本條さんが私に視線を向けた。今度こそ、しっかり挨拶しなきゃ。
 
「はじめまして。姫野、愛茉と申します。本日は、お招きくださいましてありがとう存じます」

 よし、なんとか噛まずに言えた。でもやっぱり緊張する。

「はじめまして。本條邦彦です。聞いていた以上に可愛らしいお嬢さんだから、少し緊張してしまうね」
「め、滅相もないです」

 お義父様……って私が言うのは、やっぱり変かな。桔平くんもそう呼んでいないし。
 私がオタオタしていると、桔平くんが吹き出した。
 
「緊張しすぎ」
「す、するでしょ普通!もう、笑わないでよ」

 あ、しまった。つい素が出ちゃった。

「あらあら、2人とも仲良しさんねぇ。桔平のそんな表情、久しぶりに見たわ」
「愛茉さん。堅苦しく考えず、楽にしていいんだよ。お互いにリラックスした方が、食事も美味しくなるからね」
「は、はい。ありがとうございます」

 桔平くんのおかげで、少し緊張が和らいだかも。……ほんの少しだけね。

 それにしても、本條さんってとても穏やかそうな人だな。3人の子供がいるお母様と結婚するくらいだから、度量が大きいんだとは思うけれど。

 そういえば、本條さんとお母様の間に子供はいなのかな。桔平くんが7歳の時に再婚したのなら、いてもおかしくないよね。そもそも、本條さんは初婚?いろいろ気になってしまったから、帰ってから桔平くんにコッソリ訊いてみよう。
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