ホウセンカ
「愛茉さんのために何を作ろうか、エリサは何日も考えていたからな。何度も何度も、原田さんに相談して……」
「もう!あなたも、暴露しないで」
口を尖らせて抗議するお母様に、全員の表情が緩む。
そこまで一生懸命考えてくださったのに、ここにいてもいいのかな、なんて考えたら失礼よね。ありがたく、楽しくいただこう。
オードブルの後はヴィシソワーズ、白身魚のバルサミコソテー、イチゴのソルベと、本格フレンチさながらのコース料理が出てきた。全部お母様と原田さんで作ったんだって。レシピ教えてもらおうかな……。
そしてメインのお肉料理は、私が大好きな牛肉の赤ワイン煮込み。自分でもたまに作るけれど、やっぱり素材が違うからか、格段に美味しい。ほっぺが落ちるっていう表現は、こういう時に使うんだなぁ。
食が進むにつれて極度の緊張も次第に落ち着いて、少しずつ笑えるようになってきた。
お母様は可愛いし、本條さんも優しい。そして楓お姉さんがいろいろな話を投げかけてくれるから、私も話題に困ることなく会話できる。桔平くんも、終始穏やかな表情だった。
「桔平君。今日は、君に訊いておきたいことがあるんだよ。愛茉さんとの将来を考えているのなら、きちんと話しておかなければならない」
デザートのイチゴのショートケーキを食べ終わって紅茶をいただいていた時、本條さんがおもむろに口を開いた。
何となく、場の空気がピンと張りつめた気配がする。お母様と楓お姉さんも、真剣な表情になった。
「桔平君は、私と養子縁組をする気は、今もないのかな」
話の内容を予想していたのか、桔平くんの表情は変わらない。
「今後を考えると、その方が合理的だ。相続のこともあるからね。私にとっても君は大切な家族だし、法律上も家族になることは、やぶさかではないと思っているんだよ。君はもう成人している。今どう考えているのか、聞かせて欲しいと思ってね」
長女のさくらさん、そして次女の楓お姉さんは、お母様の再婚を機に本條さんと養子縁組をしている。だけど当時7歳だった桔平くんは、嫌だと拒否したんだって。だから桔平くんだけ“浅尾”のまま。拒否した理由までは、聞いたことがなかった。
「浅尾の戸籍を抜けるつもりは、一切ありません」
一瞬間を置いてから、桔平くんは真っ直ぐ前を見据えてキッパリ言い切った。
「本條さんのことは家族だと思っています。ただ、オレは生涯、浅尾瑛士の息子でいたいんです」
「君にとって、それは重荷になるんじゃないのかな。同じ世界にいる限り、ずっと“浅尾瑛士の息子”として評価されるかもしれない。ひとりの芸術家として見られることがないとしても、浅尾の名前を背負っていくつもりなのかい?」
2人のやり取りを、お母様と楓お姉さんが固唾を呑んで見守っている。私も緊張して、喉が渇いてきた。
「もう!あなたも、暴露しないで」
口を尖らせて抗議するお母様に、全員の表情が緩む。
そこまで一生懸命考えてくださったのに、ここにいてもいいのかな、なんて考えたら失礼よね。ありがたく、楽しくいただこう。
オードブルの後はヴィシソワーズ、白身魚のバルサミコソテー、イチゴのソルベと、本格フレンチさながらのコース料理が出てきた。全部お母様と原田さんで作ったんだって。レシピ教えてもらおうかな……。
そしてメインのお肉料理は、私が大好きな牛肉の赤ワイン煮込み。自分でもたまに作るけれど、やっぱり素材が違うからか、格段に美味しい。ほっぺが落ちるっていう表現は、こういう時に使うんだなぁ。
食が進むにつれて極度の緊張も次第に落ち着いて、少しずつ笑えるようになってきた。
お母様は可愛いし、本條さんも優しい。そして楓お姉さんがいろいろな話を投げかけてくれるから、私も話題に困ることなく会話できる。桔平くんも、終始穏やかな表情だった。
「桔平君。今日は、君に訊いておきたいことがあるんだよ。愛茉さんとの将来を考えているのなら、きちんと話しておかなければならない」
デザートのイチゴのショートケーキを食べ終わって紅茶をいただいていた時、本條さんがおもむろに口を開いた。
何となく、場の空気がピンと張りつめた気配がする。お母様と楓お姉さんも、真剣な表情になった。
「桔平君は、私と養子縁組をする気は、今もないのかな」
話の内容を予想していたのか、桔平くんの表情は変わらない。
「今後を考えると、その方が合理的だ。相続のこともあるからね。私にとっても君は大切な家族だし、法律上も家族になることは、やぶさかではないと思っているんだよ。君はもう成人している。今どう考えているのか、聞かせて欲しいと思ってね」
長女のさくらさん、そして次女の楓お姉さんは、お母様の再婚を機に本條さんと養子縁組をしている。だけど当時7歳だった桔平くんは、嫌だと拒否したんだって。だから桔平くんだけ“浅尾”のまま。拒否した理由までは、聞いたことがなかった。
「浅尾の戸籍を抜けるつもりは、一切ありません」
一瞬間を置いてから、桔平くんは真っ直ぐ前を見据えてキッパリ言い切った。
「本條さんのことは家族だと思っています。ただ、オレは生涯、浅尾瑛士の息子でいたいんです」
「君にとって、それは重荷になるんじゃないのかな。同じ世界にいる限り、ずっと“浅尾瑛士の息子”として評価されるかもしれない。ひとりの芸術家として見られることがないとしても、浅尾の名前を背負っていくつもりなのかい?」
2人のやり取りを、お母様と楓お姉さんが固唾を呑んで見守っている。私も緊張して、喉が渇いてきた。