ホウセンカ
桔平くんはこれまで、家族に対して複雑な気持ちを抱えてきたんだと思う。好きとか嫌いなんていう単純なことではなくて、愛情があるからこそ、寂しさや辛さを感じていたんじゃないかな。
だけど桔平くんの中で、少しずつ何かが変わってきている。出会った時から感じている繊細さや儚さはそのままだけど、その後ろに見え隠れしていた暗い感情が、何となく小さくなっている気がするの。
もしそれが私と一緒にいるからだとしたら、こんなに嬉しいことはない。もっともっと支えになれるよう頑張らなきゃ。そして桔平くんがいつでも、穏やかに笑ってくれたらいいな。
「はい、愛茉ちゃん。この前と同じものと、新しく買ってみたものよ。お味見してみてね」
帰り際に、お母様がまた紅茶の茶葉を持たせてくれた。それと手作りのクッキー。まだバターの香りが漂っている。
「桔平と一緒に、ゆっくり味わってね」
「ありがとうございます」
「これは、私とエリサから。桔平君への誕生日プレゼントだよ」
そう言って、本條さんは綺麗な封筒を桔平くんへ差し出した。それを手に取った瞬間、桔平くんが目を見開く。
「本條さん、こんなにいただけません」
「貰ってくれないか。本当は少なすぎるぐらいだが、22年分のプレゼントだと思ってくれたらいい。画材を買うなり本を買うなり、君の自由に使いなさい」
「パパの気持ちなのよ。受け取ってあげて、桔平」
楓お姉さんに促されて、桔平くんは封筒の重みを確かめるように、両手でしっかり受け取った。そして深々と頭を下げると、本條さんが頷きながら、桔平くんの肩を優しく叩く。
血の繋がりだけじゃなく戸籍上の繋がりもないけれど、2人は紛れもなく家族なんだなって感じる瞬間だった。
「本條さんは、母さんとの間に子供が望めないのを承知の上で結婚してくれたんだよ」
帰りの車の中で、桔平くんが教えてくれた。
お母様は最愛の夫を失った直後、病気が原因で子宮を全摘出したんだって。辛いことが重なって、いつも明るかったお母様も、さすがに憔悴しきっていたみたい。
その時に支えてくれたのが、本條さん。ピアニストとしてのお母様のファンで何度もコンサートへ足を運んでいたから、もともと顔見知りではあったらしくて。
大きな喪失感の中にいたこともあって、本條さんとのお付き合いにあまり乗り気じゃなかったお母様。だけど1輪のお花と一言のメッセージを毎日贈られて、だんだん笑顔が戻ってきた。そしてその誠実な人柄に少しずつ惹かれて、本條さんとの再婚を決めたのだそう。
だけど桔平くんの中で、少しずつ何かが変わってきている。出会った時から感じている繊細さや儚さはそのままだけど、その後ろに見え隠れしていた暗い感情が、何となく小さくなっている気がするの。
もしそれが私と一緒にいるからだとしたら、こんなに嬉しいことはない。もっともっと支えになれるよう頑張らなきゃ。そして桔平くんがいつでも、穏やかに笑ってくれたらいいな。
「はい、愛茉ちゃん。この前と同じものと、新しく買ってみたものよ。お味見してみてね」
帰り際に、お母様がまた紅茶の茶葉を持たせてくれた。それと手作りのクッキー。まだバターの香りが漂っている。
「桔平と一緒に、ゆっくり味わってね」
「ありがとうございます」
「これは、私とエリサから。桔平君への誕生日プレゼントだよ」
そう言って、本條さんは綺麗な封筒を桔平くんへ差し出した。それを手に取った瞬間、桔平くんが目を見開く。
「本條さん、こんなにいただけません」
「貰ってくれないか。本当は少なすぎるぐらいだが、22年分のプレゼントだと思ってくれたらいい。画材を買うなり本を買うなり、君の自由に使いなさい」
「パパの気持ちなのよ。受け取ってあげて、桔平」
楓お姉さんに促されて、桔平くんは封筒の重みを確かめるように、両手でしっかり受け取った。そして深々と頭を下げると、本條さんが頷きながら、桔平くんの肩を優しく叩く。
血の繋がりだけじゃなく戸籍上の繋がりもないけれど、2人は紛れもなく家族なんだなって感じる瞬間だった。
「本條さんは、母さんとの間に子供が望めないのを承知の上で結婚してくれたんだよ」
帰りの車の中で、桔平くんが教えてくれた。
お母様は最愛の夫を失った直後、病気が原因で子宮を全摘出したんだって。辛いことが重なって、いつも明るかったお母様も、さすがに憔悴しきっていたみたい。
その時に支えてくれたのが、本條さん。ピアニストとしてのお母様のファンで何度もコンサートへ足を運んでいたから、もともと顔見知りではあったらしくて。
大きな喪失感の中にいたこともあって、本條さんとのお付き合いにあまり乗り気じゃなかったお母様。だけど1輪のお花と一言のメッセージを毎日贈られて、だんだん笑顔が戻ってきた。そしてその誠実な人柄に少しずつ惹かれて、本條さんとの再婚を決めたのだそう。