ホウセンカ
 桔平くんと会話するの、本当に楽しそうだな。息子みたいに思ってくれているのかもしれない。F値がどうのこうのって、私にはさっぱりよく分からない内容だけど。

 2人が意味不明な会話を繰り広げているのを横目に、智美さんと一緒に夕飯の支度をする。

「私は芸術方面、さっぱりなのよね。花より団子だから、こんな風になっちゃうんだけど」

 自分のお腹をさすりながら、智美さんが肩をすくめた。こういうところが大好きなんだよね。何も飾っていなくて、とっても明るい。

 こんなにおおらかで優しい人が自分の子供を持てないなんて、本当に残酷だと思う。子供は大好きだって言っていたし、愛する人との子供を産み育てたかったはず。

 本條さんみたいな人もいれば、子供が望めないから別れを選ぶ人もいる。正解なんて人それぞれだけども、選んだ道が正解かどうかなんて、きっとすぐには分からないよね。

 なんだろう。実家に帰ってきてから、やたらと深いことをあれこれ考えてしまう。
 もしかして20歳になるから?大人の階段上っちゃってるのかな。

「何言ってんだか」

 寝る前にベッドの中でそんな話をすると、桔平くんに鼻で笑われた。

「まだまだ子供だよ、愛茉は」
「なぁんでよぉ!」
「スヌーピーのアイスクリームケーキが食いたいとか言うし?」
「スヌーピーは、おばあちゃんになっても絶対好きなままだもん」
「愛茉が大人なのは、体だけだな。特に胸」

 そう言って触ろうとしてきた手を軽く叩いた。桔平くんって、いつでもどこでも変態だなぁ。
 でもさすがに、お父さんたちがひとつ屋根の下にいる中でエッチはしない。桔平くんも、そこはわきまえているみたいだった。

 胸を触り損ねた桔平くんの手が、私の頭を優しく撫でる。実家でも一緒のベッドで寝ているけれど、もともと私が使っていたセミダブルのものだから、ちょっと狭い。でもいつもくっついて寝ているし、あまり気にならなかった。

「お、もう0時」

 桔平くんがスマホで時刻を確認する。

「20歳、おめでとう」

 嬉しいな。今年も1番に言ってもらえた。
 抱き合ってキスをして、お互いの体温を確かめ合う。とても幸せな気持ちに包まれて、最高の誕生日になりそうな予感がした。
 
「えへへ、ありがとう」
「プレゼントは、起きてからな」
「なんだろう、楽しみ。そういえば今年は、何がいいか訊いてこなかったね」
「訊かねぇでも、自分で言ってたし」
「私が?いつ?」
「2ヶ月くらい前」

 え、なに言ったっけ。全然覚えていない。2ヶ月くらい前って、1周年デートの時とか?

「オレはな、愛茉のことなら、どんな些細なことでも覚えてんだよ」
「めちゃくちゃドヤ顔……」
「とにかく、起きたら渡すから。今日はもう寝ようぜ」

 頬にキスして、桔平くんが微笑む。
 欲しい物を言ったことに全然心当たりはないけれど、朝起きるのを楽しみにしておこうっと。
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