ホウセンカ
 そして翌朝。桔平くんは泥のように眠っていて、なかなか起きなかった。
 起こさないようにそっとベッドから出て1階へ下りる。リビングでは、お父さんと智美さんが朝食をとっていた。

「おはよう、愛茉。誕生日おめでとう」
「愛茉ちゃん、20歳おめでとう!」

 2人とも私の顔を見るなりそう言ってくれて、嬉しくて照れくさくて、御礼を言いながらむず痒い気持ちになった。

「はい、誕生日プレゼントだよ。僕と智美、2人から」
「わーい!ありがとうございます!」

 お父さんたちのプレゼントは、大人っぽいけど可愛くて、どんな服にでも合いそうなピンクゴールドの腕時計だった。これは絶対、智美さんチョイスだろうな。とても素敵。
 
「桔平君は、まだ寝てるのかな?」
「うん。なんか、すごく疲れてるみたい」
「歩き回っていたんだろうね。ゆっくり寝かせてあげなさい。お昼は札幌に行くんだろう?」
「うん、桔平くんとランチしてくる」
「愛茉ちゃん、今日は定時ダッシュで帰ってくるから。夕飯、楽しみにしててね」
「やった!ありがとう、智美さん」
 
 お昼は札幌で、桔平くんとちょっと贅沢ランチの予定。
 そして夜は、智美さんが腕によりをかけてご飯を作ってくれる。どうしよう、絶対太っちゃうよね。スヌーピーのアイスクリームケーキもあるし。ああ、幸せすぎる。

 仕事へ向かう2人を見送った後、とりあえず洗濯をすることにした。今日はいい天気だから、すぐに乾きそう。

「おはよ……」

 洗濯物を仕分けしながら洗濯機へ放り込んでいると、目がほとんど開いていない桔平くんが下りてきた。フラフラしてるし。

「おはよ!大丈夫?体、疲れてない?」
「大丈夫……久しぶりに長時間歩いたから、すげぇ爆睡してしまった……」
「コーヒー淹れるから、顔洗っておいでー」
「ういー」

 こういう会話も自然になってきた。

 1年前はまだどこか遠慮というか手探りな感じがあったけど、最近はもうお互い完全に素のまま。あれだけ不安に思っていたのが嘘みたい。

 軽く朝ご飯を食べて、桔平くんと一緒に洗濯物を干して。家事が終わってリビングでひと息ついていると、桔平くんがラッピング袋を持って2階から下りてきた。

「はい、誕生日プレゼント」
「ありがとう!スヌーピーの袋だぁ」

 ワクワクしながら袋を開けると、中身は本革のお財布だった。シックな黒だけど、さりげないスヌーピーの型押しがめちゃくちゃ可愛い。
 
「あぁー!私がネットで見てたやつ!」
「ボソッと言ってただろ。今の財布は長く使ってるから、そろそろ買い替えたいって」

 言ってた。うん、確かに2ヶ月くらい前に言ってた。本当に独り言だったんだけど。
 
「これ、限定品だよ?」
「発売直後、すぐに買った」
「2ヶ月間、隠し持ってたの?」
「うん」
「桔平くん愛してるー!」

 嬉しすぎて、思いきり抱きついた。去年のお手製のネックレスも嬉しかったし、このお財布もすごく嬉しい。
< 239 / 408 >

この作品をシェア

pagetop