ホウセンカ
「みんなに言っておくよ。姫野は元気そうだったって」
「い、言わなくていいよ、別に」
「気になってるヤツ、多いと思うけど。本当は姫野と仲良くなりたいのに、どうしたらいいか分からなかったんだよ」
「え……そうなの?」

 みんな、私と関わりたくないんじゃないかと思っていた。だって、話しかけても気まずそうな返事ばかりされるから。

 でも、先に壁をつくっていたのは私の方だったのかもしれない。自分からは輪に入っていけずに、話しかけられても上手く返せなくて。人付き合いが苦手だからどうしても構えてしまって、会話しづらい空気を自分で作り出していたんだと思う。

「今なら仲良く話せるんじゃないかって、みんな思ってるかもよ」
「……そっか。でもやっぱり、同窓会はいいや。それより彼と一緒にいたいし。今、大事な時期だから。みんなに、よろしく言っておいてね」
「姫野の彼氏って、なにしてる人?」
「藝大の学生」
「え、すげぇ」
「日本画を描いてるの。一緒に帰省したのも、卒業制作の取材を兼ねてて。できるだけサポートしてあげたいから、私だけ昔を懐かしむわけにいかないもん」
「ほら、やっぱりかっこいいよ、姫野は」

 三浦くんが、また微笑む。

「ありがとう」

 社交辞令でもなんでもない。自分の中から素直にこの言葉が出てきて、なんだか嬉しかった。
 私も少しは大人になれた気がする……なんて。また桔平くんに笑われちゃうかな。
 
「あれ、出かけてたのか。おはよう」

 犬の散歩途中だった三浦くんと別れて帰宅すると、お父さんと智美さんはもう起きていた。2人ともお休みでも早いなぁ。まだ8時前なのに。

「おはよう、お父さん。ちょっと、お散歩行ってた」
「和室が閉まったままだから、てっきり寝てると思ってたけど。桔平君が熟睡中なのか」
「うん。あのまま、ずっと寝てるよ」

 ちょっと嘘つきました。1回目を覚ましています。
 
「おはよう、愛茉ちゃん!」

 智美さんがキッチンから顔を出した。朝から明るい笑顔だなぁ。

「智美さん、おはよう!」
「トースト食べる?」
「食べる!」
「コーヒーは?」
「飲む!」
「ちょうど淹れるところだったから、ちょっと待っててね~。牛乳たっぷりにするから」
 
 智美さんには、ついつい甘えてしまう。だって優しいんだもん。

 それに“お母さん”がいるのって、やっぱり嬉しい。もちろん生みの親はたったひとりだけど、智美さんのことは2人目のお母さんだと思っている。だからいっぱい甘えたいんだ。

「おはようございます……」

 ダイニングテーブルで朝食を待っていると、和室の襖がゆっくり開いて、桔平くんが顔を出した。やっぱり、目はほとんど開いていない。
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