ホウセンカ
 だけど私はやっぱり、ヨネちゃんのようにポジティブオーラでキラキラした女の子に憧れてしまう。話を聞く限り、彩ちゃんもそんな女の子なんだろうし。

 前向きな人からは、前向きな気持ちが貰える。それなのに私はいつも後ろ向きだし悩んでばかりで、桔平くんにいい影響をもたらしているとは思えない。いつもこんなことを考えては、またネガティブループへと嵌っていく。
 いつまで同じことをやっているのかなぁって感じ。人は簡単に変われないんだよね。

「愛茉ちゃんはねぇ。傍にいるだけで浅尾きゅんにいい影響を与えてるんだからねぇー」

 まるで私の心を見透かしたように、ヨネちゃんが言った。

「浅尾きゅんの絵の雰囲気がねー明らかに変わったんだよねぇー。もともと繊細だったけどぉ前はどこか寂しい感じがあってー。とっても優しくてーとっても寂しいの」

 ああ、やっぱりそうなんだ。桔平くんの絵は、構図が大胆だけど繊細で優しい。そして、どこか孤独を感じさせる雰囲気があった。まるで世界にひとりだけ取り残されたような感覚。でもそういう部分も、桔平くんの絵の魅力でもあったんじゃないかな。

「最近は寂しさがなくなってきてーなんていうかぁ観ていると心が満たされるんだよねぇ。それは間違いなく愛茉ちゃんの影響だと思うんだぁ。前の絵と今の絵のどっちの方がいいって話じゃなくってねぇー。筆にも乗っちゃうぐらいー愛茉ちゃんの影響は大きいってことなんだよぉ」
「あぁ、なんか分かるなぁ。浅尾っちの絵って、ものすごく広い大自然の中に、ひとりでポツンといるような感じだったもんね」
「そうそうーそれも良さではあったんだけどねぇー今の浅尾きゅんも優しさに溢れていて大好きなんだよねぇー。絵の雰囲気が変わっていくのは当たり前なんだよぉ。だって人間が描いてるんだものー」
「私そんなに影響してるのかな……桔平くんの絵に……」
「してるに決まってんじゃん!」

 七海が、ビールグラスをドンとテーブルに置いた。居酒屋のオジサンみたい……あ、イメージです。あくまでも。

「浅尾っち自身が変わったんだから、描く絵だって変わるでしょ。ねぇ、ヨネちゃん」
「そうよぉ。絵には心がそのまま出ますからぁ。浅尾きゅんの心を大きく動かせるのはー世界中で愛茉ちゃんしかいないのよー」
「そうだとしても……私は何もしてあげられてないなぁって思っちゃって……」

 こうやって2人の前でネガティブな自分が出せるようになってきたあたり、少しは成長したかもなぁなんて思っている。だって自分をよく見せようなんて思っても、七海とヨネちゃん相手だと無駄な努力なんだもん。
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