ホウセンカ
 私って、やっぱりいろいろと空回るんだなぁ。何となく複雑な気持ちを抱えたまま、バスルームへ向かった。

 暑い季節はあまりお風呂に浸かりたくないけれど、ぬるめの温度で桔平くんとゆっくり入るのは大好き。モコモコの泡といい匂いに包まれていたら、悶々とした気持ちが消えていった。我ながら単純よ……。

「そんでー?オレのしてほしいことが、なんだって?」

 言いながら、桔平くんが私の頭に泡を乗せていく。お返しに、私は桔平くんの顔を泡だらけにしてあげた。

「ヨネちゃんがね、自分がしてあげたいことと相手のしてほしいことは、必ずしも同じじゃないって」
「あぁ……なるほど。それでオレを観察してたわけね」
「そうです」
「今オレがしてほしいのは、照明を明るく」
「ダメです」
「オレはいつでもどんな時でも、愛茉の可愛い顔をハッキリ見ていたいんだよ」
「私の顔は、暗くてもハッキリ見えるぐらい可愛いでしょっ」

 桔平くんは口をへの字にして、片眉を上げた。これは、とっても不満を感じている時の顔。そんな顔しても、ダメなものはダメです。ていうか、泡だらけだから面白いし。

「……まぁ照明はすげぇ不満だけど、愛茉はいつもいろいろしてくれてるじゃんか。これ以上望むことなんて、なんもねぇよ。強いて言うなら、愛茉の“してあげたい”がオレの“してほしい”だな」
「ほんとにぃ?」
「愛茉がオレにしてくれることは、全部本気で嬉しいんだからさ」
「……でもさぁ。桔平くんが自分の絵を描きあげるために、私にできることってないんだろうなぁって思っちゃって」

 泡の中に潜りながら言うと、桔平くんが私の顔を両手で包み込んだ。

「あるよ。愛茉にしか、できないこと」

 あたたかい瞳で、真っ直ぐ見つめてくれる。やっぱり今日は、大好きが溢れるなぁ。

「オレの傍にいて、怒ったり泣いたり笑ったり、いろんな顔を見せて。愛茉が愛茉のままでいてくれたら、オレは必ず自分の絵が描けるから」

 そのまま、優しくキスをしてくれた。
 桔平くんの愛情が唇から流れ込んでくる。心も体も、桔平くんで満たされていく。まるで魔法みたいに、悶々とした気持ちが溶けてなくなる。

 無理しなくていいんだ。私は私のままでいい。それは、私にしかできないことだもん。もうごちゃごちゃ考えるのはやめよう。……と思っても、絶対また考えちゃうんだけどさ。

 でも今は、桔平くんのあたたかさだけを感じていよう。

「桔平くん、大大大好きっ!」
「知ってます」

 桔平くんが柔らかく笑って、また唇を重ねた。
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