ホウセンカ
 そんなわけで、この8人での飲み会が実現したわけですが。

 お母さん、私はもう出だしから不安です。ここにヨネちゃんがいてくれたら……ということばかり考えてしまいます。桔平くんの不機嫌オーラが右半身に突き刺さります。助けてください。

「おれは小林ですぅ。小さい林の小林……って誰が小さいねん!」

 小林さんが、どこかで聞いたことがある自己紹介をしている。持ちネタなのかな?結衣と葵の張り付いた笑顔が、なんとも言えない。

「ほんでぇ、下の名前は“いっさ”言いますぅ」
「え、茶人?」
「違うよ、結衣。俳人だよ……」
「だって小林一茶って、お茶って書くんでしょ?」
「いやっ!アオちゃん物知りっ!“茶”って書く小林一茶は、江戸時代の俳人ですぅ。でも!おれの“さ”は、佐賀の佐ですぅ。出身は佐賀ちゃうけどなっ!ゆいぴーも、ちゃんと覚えてなー!」
 
 アオちゃんに、ゆいぴー……。小林さんって、距離の詰め方がちょっとアレなのよね。良い人なんだけど、うん。

「ほら、ヒデも自己紹介せんと」
「あ、ああ……えっと……長岡……です」

 場慣れしていない感満載の長岡さんは、俯いてボソボソと言った。相変わらず髪の毛もっさり。そしてポロシャツにニットベストで、やっぱり垢ぬけない印象。でもこれが長岡さんの良さでもあるのかなぁなんて、最近は思っている。

「長岡さん、下のお名前は?」

 お、葵が食いついた。清楚な外見とは裏腹に、実はかなりの肉食系女子です。そして長岡さんのような奥手男子が大好物。つまり、そういうことです。でも良い子です。

「えっと……英哉です……」
「英哉くんって呼んでもいい?」
「え、えっ?あ、お、お好きに……」

 攻めるなぁ、葵……。もうタメ口になってるし。だけど長岡さんはタジタジ。

「いやっ!おれのことも“ISSA”って呼んでぇな!あい、えす、えす、えー!」
「小林さんのTシャツ、面白いですねー」

 棒読み気味に結衣が言う。“小林さん”のところ、やたら力強かったな……。
 ちなみに今日の小林さんは、朗らかな表情をしたウサギの顔の下に“うなぎ”と書いてあるTシャツ。いろいろなバリエーションがあるんだね。

 私はハラハラしながら4人のやり取りを見守っているけれど、向かいのカップルはとってもマイペース。翔流くんがどんどん飲むのを、七海が窘めていた。
 
「翔流、ちょっとペース早すぎ」
「いいじゃーん、久しぶりなんだし。はい、七海も飲め飲め~。帰りはちゃんと俺が送るから安心しろ~」
「そんなの、当たり前でしょ」

 なんやかんやで、七海と翔流くんはやっぱり仲良し。翔流くんがめでたく法科大学院に合格したこともあって、最近は落ち着いているみたい。
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