ホウセンカ
「……別に、これといって理由はねぇけどさ。一目惚れだし」
「浅尾っちって、愛茉のことになるとちゃんと喋るよね」
「そりゃそうでしょ。むしろ愛茉ちゃん絡みじゃないと絶対喋んないんじゃね」
 
 七海と翔流くんが笑っている。

「いやっ!浅尾っちは情熱的なんだからっ!そういや、ヒデも愛茉姫に一目惚れしとったなぁ?」

 小林さんは、私のことを“愛茉姫”と呼んでいます。……姫野愛茉なんですけどね。
 ていうか、そうじゃなくて!ここでそのネタを言う!?案の定、長岡さんは顔を真っ赤にして狼狽えまくってるし。

「いっ、いやっ!その、ひ、一目惚れっていうか」
「え、英哉くんって、愛茉のことが好きなの?」

 葵が、私と長岡さんの顔を交互に見る。結衣は小林さんに「余計なことを……」と言わんばかりの視線を送っているけれど、本人はまったく気がついていない。

「す、好きっていうか、違くって、いや、違わないんだけど、いや違う!」
「好きや言うてたやんかぁ。まぁ分かるけどな!愛茉姫は地上に舞い降りた天使やしな!」
「まぁ、愛茉の顔は国宝級だもんねぇ。一目惚れするのも分かるなぁ。結衣が男なら絶対好きになるもん。葵も、そう思わない?」
「えぇ~……私は一目惚れってないな。それ、外見だけってことじゃない?」
「顔だけじゃねぇよ、一目惚れは」

 桔平くんが言うと、みんなのお喋りがピタリと止む。静かな声なのに、何故か聞き入ってしまう魅力があるんだよね。
 桔平くんは全員を見渡すような、でもどこか遠くを見ているような顔で、おもむろに口を開いた。

「アメリカのシラキュース大学のステファニー・オルティグ教授が実施した新しいメタアナリシス研究によると恋に落ちるため必要なのは僅か0.2秒そしてドーパミン・オキシトシン・アドレナリンおよび血管収縮などの陶酔を誘発する化学物質を放出するため脳の12領域が並行して働くことが報告されていてコカインを使用するのと同レベルの陶酔感が得られると言われているそもそも一目惚れは強い遺伝子を残したいという願望によって本能的に起こるものであって動物的勘を発揮して相手の持つ遺伝的性質を瞬時に感じ取り遺伝子レベルで相手を見極めているからこそ離婚率も低く」
「すすストップストップ。桔平くん、分かったから」

 みんなポカンとしている。長岡さんと翔流くんだけは苦笑い。この2人は、桔平くんの早口を知っているんだろうな。治ってきたのは高校ぐらいからって言ってたもんね。私の前では、よく出るけど。
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