ホウセンカ
「……つまり。オレらは互いに一目惚れみたいなもんだけど、見た目じゃなく遺伝子レベルで結びついているわけです。以上。どうぞ、ご歓談ください」

 言うだけ言って、桔平くんはまたパエリアを食べ始めた。ちなみに、ずっと無表情です。
 私の向かいでは、翔流くんが笑いを堪えている。みんなが唖然とするなか、私は頬が熱くなるのを感じた。

 精神的にとても大人で他人には自分の感情を出さない桔平くんだけど、翔流くん曰く、私が絡むとムキになる時があるんだって。

 もしかすると“顔だけで私に一目惚れした”って言われているように感じて、私のためにそれを否定してくれたのかもしれない。顔ばかり褒められるのは慣れているけれど、私の心にほんの少し複雑な感情が介在しているのを、桔平くんは知っているから。

 まぁ、愛がかなり強火すぎて焦げちゃいそうだけど。でも私は、それがとても嬉しい。

「浅尾のそれ、ものすごく久しぶりに聞いた」

 一瞬の間をおいて、長岡さんが吹き出した。

「高校に入学した直後は、結構頻繁にあったな。すごく難しいことを早口で言うの。同級生たちが引いてたの、思い出したよ」
「おれは初めて聞いたわ!つまり浅尾っちは今、愛茉姫への愛を語っとったわけやな!いやっ!やっぱり情熱的っ!素敵!BIG LOVE!」

 小林さんは、引くどころか感激?している模様。やっぱり、桔平くんのこと大好きなんだね。
 
「そういや、この中だとヒデくんが一番桔平と付き合い長いんじゃん。俺は高1の夏くらいからだもんね。その頃も、まだこの癖出てたもんなぁ」
「ボソボソと早口で喋るから、聞き取るのが大変で……」
「そうそう。でも大体、独り言みたいなものなんだよねー。だから俺、途中から聞き流すようになっちゃった」
「私、浅尾っちがそんなに喋るなんて知らなかったわ。頭良い人って、やっぱりなんか違うのね」
「ほら、愛茉。生ハム」

 翔流くんと長岡さんと七海が、目の前で自分のことを話している。それなのに桔平くんはまったく気にすることなく、少し遠くに置いてあったお皿から、私のために生ハムを取り分けてくれた。そういえば、隣の4人が気になって何も食べていなかったわ……。

「あ、ありがとう、桔平くん」
「周りばっか気にして、全然食ってねぇじゃんか。ほら、じゃんじゃん食え」

 私の取り皿に、料理がどんどん盛られていく。全部私が好きなものばかり。その様子を見て、長岡さんが目を細めた。
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