ホウセンカ
「英哉くん……私でよければ、いつでも話聞くからね?」

 長岡さんに熱い視線を送りながら、葵が言う。落としにかかってます。
 
「え?えっと……あ、いや、大丈夫だから……」
「でも目の前でイチャついてるんだよ?」
「いっ、イチャついてないしっ!ねぇ、桔平くん」
「あぁ、普段通りだよなぁ?」

 ずっと無表情だった桔平くんが、そう言って私に笑いかけた。……なんか、煽りが入ってない?
 
「わろてるやん、浅尾っち……2人の世界やん……。ヒデぇ!新しい恋せな!浅尾っちには、どう足掻いても敵わんて!」
「べ、別に、浅尾と勝負したいわけじゃないよ。2人の間に割って入る気なんて最初からないし……それに、仲良さそうな姿見るの、なんか嬉しいから」
「はぁ~ヒデちゃん、健気っ!ほら翔流、お酒を注いで差し上げて!」
「ほいほい。まぁ飲みたまえよ、ヒデくん」

 翔流くんが長岡さんのコップにビールを注ぐ。七海、いつの間にか“ヒデちゃん”呼びになっているし。少し出来上がってきてる?

 それにしても、長岡さんって本当にピュアな人。なんだか、ずっとこのままでいてほしい気もする。
 いい恋愛をして素敵な彼女を見つけてほしいとは思っているけれど、本当にそうなったら、私は少し寂しく感じてしまうかもしれない。気持ちには応えられないくせにこんなこと思うなんて、本当に性格が悪くて自己中だな。

 桔平くんへの気持ちが揺らぐことは絶対にない。他の人が入り込む隙間だって、1ミリもない。それでも、長岡さんのように真っ直ぐな人に好かれていることを嬉しいと感じるのも事実。桔平くんはきっと、私のこんな狡さや汚さを見抜いているんだろうな。

 やっぱり、来るべきじゃなかった。七海と翔流くんに任せておけばよかったんだ。ちょっと自己嫌悪で落ち込んできちゃったかも。
 
「愛茉」

 思わず俯きそうになった時、桔平くんに名前を呼ばれてハッとする。

「生ハム、ウマい?」
「う、うん。すごく美味しいよ」
「そっか。それなら来て良かったな」

 さっきまでの不機嫌オーラは消えて、桔平くんは穏やかに笑っていた。

 ……どうして桔平くんには、いろいろバレちゃうのかな。気持ちが沈みそうになったら、いつもすぐに受けとめて掬い上げてくれる。みんなから好かれたいなんて、虫の良いことばかり考えている女なのにね。

 長岡さんが、ちらりと視線を向けてくる。目が合うと少しだけ微笑んでくれたけど、またすぐに逸らされてしまった。

「おれもなぁ、最近失恋してん……せやからヒデの気持ち、めっちゃ分かるで……」

 なんか突然、小林さんが語り始めた。
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