ホウセンカ
小さなイベリス
 すげぇ好きみたい。そう言った桔平くんの顔と声を思い出しては、中身が飛び出てしまうんじゃないかってぐらい、クッションを強く抱きしめてしまう。

 家に帰ってからも、ずっと夢見心地で。美術館の展示物を見る真剣な眼差しとか、私が名前を呼んだ時の照れた表情とか、桔平くんのすべてが心をじたばたさせていた。

 3回のデート。そのうちの1回は終わったから、あと2回。その後で桔平くんに返事をしなきゃいけない。彼女になるか、ならないか。
 私は、ちゃんと答えが出せるんだろうか。
 
「てか、悩む必要ある?私なら喜んで即オッケーするけどな」

 翌日、学校で桔平くんのことを話すと、七海に呆れ顔で言われた。
 
「悩んでるっていうか。桔平くんのこと、まだよく知らないし」
「桔平くん」
「だ、だって、名前で呼んでって言うから」
「既にラブラブじゃん?デートも楽しかったんでしょ?」

 楽しかった。すごく楽しくて、時間があっという間に過ぎてしまって。電車の中でずっと、帰りたくないって思っていた。

 桔平くんのことをいろいろ知ることができて、たくさんの表情が見られて、やっぱりどんどん惹かれていて。気持ちは膨らむ一方だった。
 
「まぁ、愛茉にとっては初カレってことなんだもんねぇ。慎重になるのも分からなくはないけどさ、浅尾さんみたいな男に告られるって、そうそうないよ」

 私だって、びっくりしてる。まさかこんな展開になるなんて思ってなかったもん。

 そりゃ口説いているとは言われていたけど、あの時は軽いノリだったんだろうし。でも昨日の言葉は、真剣なのが伝わってきた。

「まぁ愛茉ぐらい可愛ければ、よりどりみどりか」
「そんなことないよ……」

 顔が可愛いだけじゃ、本当に選んではもらえないんだよ。

 桔平くんは、私のことを何も知らない。今は好きって言ってくれるけど、深く知れば知るほど離れてしまう気がして。私はそれが怖いの。桔平くんへの気持ちが膨らんだ分、不安も大きくなる。
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