ホウセンカ
「結衣、やっぱり面白くて個性的な人が好きだなぁ。一佐くんも、楽しい人だね」

 あれ、名前で呼び始めた。小林さんは嬉しそう。

 だけど私は、結衣の計算高さを知っているんだよね。ある意味で私と同類というか。不用意な発言が多い反面で、こう言えばこうしてくれるだろう、みたいに考えている部分がある。

 だから多分これは、小林さんをエサにして他の藝大生を釣ろうっていう作戦だと思います。私にはお見通しなのです。だってどう考えても、小林さんは結衣のタイプじゃないんだもん。

「一佐くんって、友達多いんじゃない?」
「まぁなー!小さくても顔は広いしなぁー!……いやっ!自分で“小さい”言うてしもたっ」
「結衣さぁ、いろんな藝大生とお話してみたいんだよねぇー。一佐くんも含めて、また藝大生との飲み会を企画してほしいなぁ」
「いやっ!おれも含めて!?そんなん、企画しちゃうしちゃうー!」

 ほら、やっぱり。完全に小林さんをエサにしようとしている。翔流くんと付き合う前の七海を思い出したけれど、この2人が同じように付き合うことは絶対にないんだろうなぁ。
 
「……ねぇ。小林さんって、学校内に友達多いの?」

 こっそり桔平くんに耳打ちする。
 
「さぁ。オレら以外とツルんでるのは見たことねぇけど」
「飲み会の企画って……」
「ヨネに頼むんだろ」
「あ、やっぱり」

 ヨネちゃんは朗らかだし人当たりがいいから、学部や学科に関係なく知り合いが多いみたいだもんね。

 話の流れで、結衣たち4人がLINEの交換をしている。……私も、まだ連絡先知らないんだけどな。すると、小林さんが目を輝かせて私の方を向いた。

「そういや、愛茉姫のLINE知らんな!」
「あ、そ、そうですね」
「いやっ!いまだに敬語っ!もう友達なんやし、やめやめ!そして名前で呼ぶっ!なぁ、ヒデ!」
「え?えっと……まぁ、愛茉ちゃんが楽な方でいい……よね、浅尾?」

 長岡さんは相変わらず、少し困ると桔平くんに水を向ける。

「伝言ゲームみたいに、こっちへ振ってくんじゃねぇよ。好きにすりゃいいだろ」

 桔平くんの表情と声からは、ほとんど感情が読み取れない。やっぱりヤキモチとかはないのかな。まぁ、それだけ信頼されているってことだもんね。それなのに少しだけモヤッとするのは、一体何でだろう。
 
「ねぇ。どうせなら、みんなLINE交換しとこうよー」

 トイレから戻ってきた七海が提案して、私は連絡先を知らなかった翔流くん、小林さん、長岡さんとLINEを交換した。

 ただ、ひとりだけ関係ないって顔をしていた桔平くんには、結衣たちは何も言えず……。本当に女の人を遠ざけるよね。まぁ、私としてはすごく安心ですが。
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