ホウセンカ
ヨネちゃんは猫の妖怪がパレードをしているような、妖しいけれど可愛くてコミカルな絵。英哉くんのは、綺麗にメイクをした女性が、自分の素顔が映る鏡を覗き込んでいる絵。そして一佐くんは、雪山と青空をバックに神の鳥といわれる雷鳥が羽ばたいている絵。
それぞれの個性は変わらずだけど、集大成と呼ぶに相応しい作品が並んでいた。一佐くんの自画像がとても美化されまくっていたのには、思わず笑ってしまったけどね。
桔平くんの自画像は、やっぱりどこか翳《かげ》があるように見えた。それはきっと、癒えることのない寂しさがあるからだと思う。
卒業制作の絵は、小樽のパノラマ展望台から見た景色。タイトルには“沈んで昇る”と書いてある。展望台西側に見える断崖の荒涼とした雰囲気と、水平線に沈む夕陽の切なさ。そして、どこまでも続く海が、明日への希望を感じさせるような絵だった。
ちなみに桔平くんの卒業制作は、日本画専攻の優秀作品として大学が買い上げることになっている。昔から卒業・修了制作で特に優秀な作品を大学が買って収蔵する制度があるんだって。金額は30万円で、桔平くんが賞で貰う金額に比べたら微々たるものだけど。そのお金で、私のお父さんと智美さんに何かしてあげたいって言ってくれた。
桔平くんとしては、今回の絵も全然納得していないんだと思う。それでも高く評価されるのは、自分のセンスや才能を過信せずに、努力しつづけているから。
桔平くんは常にいろいろな人の作品を見て研究して、いつもたくさんのことを勉強している。“浅尾瑛士の息子”としてしか見ていない人もいるみたいだけど、桔平くんの努力の成果を評価している人は、きっとたくさんいるんじゃないかな。
だってこの卒業制作の絵は、今まで私が見てきた絵の中で、一番心に刺さったもん。悩みながらも光を見つけようとしている桔平くんの心が、そのまま表れているようで。眺めていたら涙がこみ上げてきた。
心の奥深くには、まだ辿り着けていない。だけど、少しずつ近づいているかもしれないって思えたんだよ。
そしてその日はヨネちゃんたちと一緒に居酒屋へ行って、みんなでワイワイ言いながら美味しいご飯とお酒を堪能した。
だけど桔平くんは終始うわの空という感じで、いつも以上に人の話を聞いていなくて。やっぱりあの人と鉢合わせしてしまったのかもしれないと思って、また心がざわついてしまった。
「訊きたいこと、あるんじゃねぇの?」
桔平くんにそう言われたのは、帰宅直後。言葉に詰まる私を見て、桔平くんは小さく頭を振ってベッドへ腰かけた。
「いや、今のは狡かったな。会ったんだろ?コレットで」
ああ、やっぱり。桔平くんも会ってしまったんだ。美術館で珍しく周りばかり見ていたのは、あの人がいるかもしれないって思ったからなんだろうな。私も、彼女は桔平くんの卒業制作を観に来ているんだと思っていた。
それぞれの個性は変わらずだけど、集大成と呼ぶに相応しい作品が並んでいた。一佐くんの自画像がとても美化されまくっていたのには、思わず笑ってしまったけどね。
桔平くんの自画像は、やっぱりどこか翳《かげ》があるように見えた。それはきっと、癒えることのない寂しさがあるからだと思う。
卒業制作の絵は、小樽のパノラマ展望台から見た景色。タイトルには“沈んで昇る”と書いてある。展望台西側に見える断崖の荒涼とした雰囲気と、水平線に沈む夕陽の切なさ。そして、どこまでも続く海が、明日への希望を感じさせるような絵だった。
ちなみに桔平くんの卒業制作は、日本画専攻の優秀作品として大学が買い上げることになっている。昔から卒業・修了制作で特に優秀な作品を大学が買って収蔵する制度があるんだって。金額は30万円で、桔平くんが賞で貰う金額に比べたら微々たるものだけど。そのお金で、私のお父さんと智美さんに何かしてあげたいって言ってくれた。
桔平くんとしては、今回の絵も全然納得していないんだと思う。それでも高く評価されるのは、自分のセンスや才能を過信せずに、努力しつづけているから。
桔平くんは常にいろいろな人の作品を見て研究して、いつもたくさんのことを勉強している。“浅尾瑛士の息子”としてしか見ていない人もいるみたいだけど、桔平くんの努力の成果を評価している人は、きっとたくさんいるんじゃないかな。
だってこの卒業制作の絵は、今まで私が見てきた絵の中で、一番心に刺さったもん。悩みながらも光を見つけようとしている桔平くんの心が、そのまま表れているようで。眺めていたら涙がこみ上げてきた。
心の奥深くには、まだ辿り着けていない。だけど、少しずつ近づいているかもしれないって思えたんだよ。
そしてその日はヨネちゃんたちと一緒に居酒屋へ行って、みんなでワイワイ言いながら美味しいご飯とお酒を堪能した。
だけど桔平くんは終始うわの空という感じで、いつも以上に人の話を聞いていなくて。やっぱりあの人と鉢合わせしてしまったのかもしれないと思って、また心がざわついてしまった。
「訊きたいこと、あるんじゃねぇの?」
桔平くんにそう言われたのは、帰宅直後。言葉に詰まる私を見て、桔平くんは小さく頭を振ってベッドへ腰かけた。
「いや、今のは狡かったな。会ったんだろ?コレットで」
ああ、やっぱり。桔平くんも会ってしまったんだ。美術館で珍しく周りばかり見ていたのは、あの人がいるかもしれないって思ったからなんだろうな。私も、彼女は桔平くんの卒業制作を観に来ているんだと思っていた。